コンサルティングの現場から~4:お客さま視点と競争力の源泉
2016.03.12
戦略を考える際に、「お客さま視点」を忘れてはならないという点は前回申し上げたとおりです。その理由について、少し掘り下げてみましょう。
戦争と違ってビジネスには、競合する同業他社だけでなく、当然お客さま(市場)が存在します。戦争のように敵軍(競合)を負かすだけでは、ビジネスに勝利したとは定義できません。ビジネスを見る視点を少し変えると、ビジネスの世界では、「お客さまに選ばれる」というプロセスが必ず存在することに気がつきます。つまり、ビジネスにおいては、競合との勝ち負けだけではなく、お客さまに選ばれることで、初めて勝利するということができると定義することができます。
では、お客さまに選ばれるためにはどうすればよいのでしょうか。その点においても、「お客さま視点」というのがキーポイントになってきます。
自社・競合・お客さまの3つの視点(3C分析)から+2Cの5C分析へ
我々がコンサルティングの現場で支援する場合、3C分析でとどまることはあまりしません。戦略思考の幅をさらに広げるために、もう一歩踏み込んで2つの「C」を足し、既存の3C分析を拡張して5C分析とします。どの「C」を足すかというと「お客さまのお客さま(Customer)」と「お客さまの競合(Competitor)」の2つの視点も加味して現状を分析します。
そうすることで、自社が提供しているサービスや納品している商品を「お客さま視点で」見たときに、自社のお客さまが、お客さまのお客さまに向けて、ビジネスを展開する上で、どのように活用されているのか?いつ活用されているのか?誰が何のために活用しているのか?を深く考察することになります。
また、お客さまの競合を考えることで、お客さまが活動している市場の特性や、競合と差別化するために自社の商品・サービスをどう使ってもらうかなど、用途提案も含めて広い視点で市場を見ることにつながります。
このように自社が提供している商品・サービスの提供価値を改めて考えることや、お客さまがどのような環境下で同業者と競合しているかを考察することで、自社が取るべき戦略を考える上で大きなヒント(要素)になります。
お客さまに選ばれる軸
一般的には「我が社の強み」と言われるものを答えられると思います。コンサルティングでも「強みの分析」から入ることが多いですが、この「強みを挙げる」ということが多くの企業で苦手なケースが多いです。特に、幹部や後継者を含めたプロジェクト型支援では、そのバラつきは顕著です。「弱みは何ですか?」と聞くと湯水のように出てくるけど、強みは?と問われた途端に意見が出てこなくなるという現象はよくあることです。
私の師匠がよく言っていました。「ビジネスにおいて重要なのは、競争に勝つ源泉をどこに置くかということである」と。それはつまるところ、強みなのですが、別の角度から見ると「お客さまに多数の同業の中から自社を選んでもらう軸」をどこにおきますか?と同じ意味になると思います。
もし、貴社がうちは「価格面」で競合と比較して選んでほしいんだと考えれば(価格を一番の選択軸にするのはお勧めしませんが)、低価格で提供できる仕組みづくりが必要になるでしょう。例えば、百円ショップ「ダイソー」を展開する株式会社大創産業のビジネスモデルを見てみると、決して体力を削って安売りをしているわけではないことが分かります。売価を100円に設定してもしっかり利益を確保できるだけの「仕組み」を持っているのです。そして品質と価格のバランスが絶妙に取れているため、消費者にあれだけ受け入れられているのでしょう。つまり、大創産業は、お客さまに「100円という低価格軸」を訴えつつも、「その価格を上回る品質と品揃え」という2軸を持ってお客さまに「自社を選んでもらいたい」と戦略を描いていることが分かります。
また、「品質面」で競合と比較して選んでほしいと考えれば、品質水準を上げるための工程強化やチェック体制を強化する必要があるでしょう。もしくは「小回りの利くきめ細かいサービス面」で競合と比較して選んでほしいと考えれば、サービス面で他社に勝る工夫をする必要があるでしょう。
「お客さまに選ばれる軸」つまり、「何によってお客さまに選ばれたいか」を明確にすることが重要であり、それが今後「強化するべき強み」でもあります。
お客さまが数ある同業の中から貴社を選ぶときの「比較・選択軸」を何に設定し、その特長をいかにお客さまに伝えていくか。それがビジネスの原理原則でもあります。
推す特長が何もない企業ということは、お客さまに比較・選択軸を何も提供していない企業ということになります。それは、お客さまに選んでもらえない企業と同意であり、ビジネスの世界で勝つことができない状態にあります。
競争力の源泉はどこにあるのか?
しかし、その強みを生み出している「仕掛け」や「仕組み」については、社外の人間には知る機会はなかなかありません。社内の人材しか知りえない情報でもあります。そして企業内で、「自社が強みを発揮できている仕組み」を明確に説明できるのは、経営者が唯一の存在であることが非常に多い、要は「競争力の源泉」は社長の頭の中にあることが多いというのが我々の肌感覚としてあります。
これを如何に社内の共通言語にして、経営者以外の幹部が理解し、自分たちの競争力の源泉を自分たちの言葉で語れるようになることが、強い企業づくりの大きな方向性だと考えています。
何に資源を集中するべきか
中小企業が戦略を構築する際に注意すべきは、【1】何に焦点を当てるかと【2】どこに資源を投入するかの2点です。
【1】何に焦点を当てるべきかという点に関しては、「お客さまへ提供する自社が選ばれる軸」に焦点を当てるべきです。いくら経営者の思い入れで、うちの強みはここだ!と思っていても、それをお客さま視点で見たときに、他社と自社を比較し、選択するために有効な軸でなければ、意味がありません。
【2】どこに経営資源を投入すべきかという点に関しては、「強みを発揮するための仕組み」部分に資源を投入すべきでしょう。ただし、その仕組み=源泉が経営者の頭の中だけにあるのでは、それが補強されたり、強化されたりすることはありません。
資源を投入する前に、自社の強みの源泉を明確にし、社内で共有することが、強い企業づくりの一歩目であると言えます。
自社がお客さまから選ばれている軸は何のか?自社の強みを生み出している仕組みは何なのか?この2点をまず社内で共有することから始めてみてください。
次回テーマは、「組織と仕組みで実践するマーケティング」です。