特別損益の話 ~スペシャル損益?~
2016.03.14
終業時間直後、得意先回りを終えたベテラン営業マン・八木田が、経理課の木下を訪ねてきた。電話はときどきあるが、直接やってくるのは珍しい。気づいた木下はフロアの入り口に立つ八木田に歩み寄った。
「いやぁ~、木下さん。こないだはウチの新人、東山の質問に答えてくれたみたいで助かりました」相変わらず特徴的なパーマ頭で、軽快な口調の八木田だ。
「いえ、電話で少し話しただけですよ。気になったことがあったらどんどん聞いてください」ただの挨拶じゃなさそうだと察した木下だが、そのとおり、八木田の相談が始まった。
「そう言ってもらえると心強い。実は僕もチェックしておきたいことがあって・・・。先日、東山が木下さんに電話した後、特別損失にはどのようなものがあるのかと僕に聞いてきたんです。特損なんてレアなケースだから、それこそケースバイケースだよ・・・と答えたんですけど、間違っていないですよね。私もそれほど詳しい訳じゃないから、生半可なことを後輩に教えたらまずいと思ってね」
そんなことでわざわざ木下のところに立ち寄るとは、八木田はなかなかの教育者である。
「間違っていませんよ。会計的には非経常的な損失で、特に臨時で巨額の損失のものが特別損失です。具体的にどんなものかは、思い浮かびますよね?」
「そりゃあイレギュラーな事態でしょうね。災害や事故に見舞われるとか、アクシデント系ですよね」
「そうですね。私も前職で担当させていただいていた会社の決算で『竜巻損失』という特別損失を計上したことがあります」
「それはサプライズですな!」
「驚きました?でも、実際には期中に仮勘定として計上しただけで済みました。被災直後はいろんな資材や資料の消失で大変でしたが、人的な被害もありませんでした。決算までに保険が下りたので、最終的に簿価の損失額を上回ってカバーされて、『保険差益』という特別利益の計上となりましたけどね」
「そうでしたか。確かに事故や災害は避けようと思っても発生してしまう一方で、保険をかけているケースも多いでしょうからね」
「はい。ただ、保険でカバーしきれなかったり、残念にも保険対象外だったりすると、被害額が特別損失に計上されてきます。そんな時は、金額の規模や復旧までの期間などを勘案して、今後の事業への影響を慎重に見なければならなくなります」
「そうですね、事業を行う上で、機械や車という設備面の更新が定期的にある会社では、それら固定資産の売却損益や除却損が定期的に計上されますね」
「算出メソッドは簿価と売価の差額でしたね?」
「そうです。建物や機械といった償却性資産であれば、減価償却で簿価が取得原価より減っていますので注意が必要です」
「有価証券の売却損益なんかは、営業外損益にカテゴライズされるんでしたよね?」
「半分正解です。短期投資の売買目的有価証券の売却損益だったら、通常は営業外損益に計上されますが、長期保有の投資有価証券や関係会社株式の売却損益は特別損益に計上されるでしょうね。ただ、金額の規模や頻度によっては、会社の判断で計上される項目が決められることもありますので、営業外損益・特別損益の双方を忘れず確認する必要があります」
「そういえば、有価証券は保有目的によって計上されるカテゴリーが違うんでしたね。はいはい、だいぶ頭の整理ができました。スペシャル損益のイメージがしっかりできましたよ!」
「八木田さん、それはちょっと強引ですねぇ。確かに『特別』を直訳するとそうなりますが、正しい英訳では、普通ではないというエクストラオーディナリー(Extraordinary)・ロスまたはゲインとなるそうですよ」
「そうですか。また和製英語をつくってしまいましたな、ははは」と八木田が頭を掻きながら大笑いすると、他の経理課員たちが顔を上げて物珍しい顔をするので、木下も苦笑いをしたのだった
特別損益
ここには特に「臨時・巨額なもの」が計上されてきます。正常な設備の新陳代謝に伴う処分差損益の他にも、二人の会話の中に出てきた事故や災害による特別損失には気をつけたいところです。事業の根幹的な製造ラインに被害が出たケースや被害の大きさ如何によっては、計上された決算期のみならず、その後の事業運営に及ぼす影響についても慎重な見極めが求められるでしょう。
同様に資産が将来キャッシュを生み出す力を失ったために簿価を切り下げる「減損損失」や、主要得意先の倒産等に伴う巨額の「貸倒損失」についても、会社の将来を大きく左右する可能性があることから、注意したいところです。
なお、金額の僅少なものや毎期経常的に発生するものは、営業外損益に含めることが認められています。
前期損益修正
企業会計原則では、前期損益修正は特別損益に属する項目として挙げられています。ですが、2009年に「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が公表され、過去の財務諸表を修正再表示する扱いとなりました。修正再表示がされた場合、過年度の期間に関する累積的影響額を期首残高に反映させることとなります。
ただ、同基準においても重要性の乏しいケースでは営業損益または営業外損益にて認識される扱いになったことに加え、実務上対応が困難な中小企業では従前の処理が適用されることも想定されますので、覚えておきたいポイントです。
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