キャッシュフロー分析の見方~キャッシュストック?~
2013.12.20
レクチャーを受けて決算書への興味が増した青山だが、調査会社の報告書に添付されたキャッシュフロー計算書については、まだ見方がよくわからずにいた。現預金が増えているのが良い状態で、その内訳である営業・投資・財務のどの活動でキャッシュフローがプラスなのかを見ることが大事だ、と本には書いてある。しかし財務分析で「裏読み」の重要性を教わった青山は、キャッシュフロー分析の裏読みの仕方が気になった。
午後になり中谷の手が空いた様子を見て、青山はまた質問をぶつけてみた。
「キャッシュフロー分析自体が決算書の裏読みツールだから、その裏読みは必要ないんじゃない?」
中谷のいかにも昼下がりのそっけない返事に、青山は少し気が抜けた。
「もともと決算書では現金の動きがよくわからないから、現金の動きを簡易的に読み取れるようにしたものがキャッシュフロー計算書なの。だから、本業の資金創出を示す営業キャッシュフローがマイナスのときと、投資キャッシュフローがプラスのときは、決算書に戻って原因を特定することが大事だわね」
「そんなものですか」とまだ拍子抜けした顔をしている青山に、中谷が続けた。
「キャッシュフローはもちろん重要だけど、資金繰りはそもそもの現金の量と一緒に見ないダメよ」
キャッシュフロー計算書の見方
有価証券報告書を作成しない企業がキャッシュフロー計算書を作成することは稀ですが、TDBでは入手した財務諸表を用いてキャッシュフロー計算書を独自に作成して添付するサービスを1998年6月から始めました。
キャッシュフロー計算書は平たく言えば、その期に現金が増えたか減ったかを示すものですが、中谷が説明したとおり、その過程において営業活動・投資活動・財務活動のどこで現金が創出されているかをチェックすることが重要です。
理想的な状態は、営業活動で創出した現金(営業CFが+)を、投資(投資CFが-)や借入返済(財務CFが-)に回している状態と言われます。逆に危険な状態は、営業活動で現金を創出できず(営業CFが-)、資産の切り売り(投資CFが+)や借入増加(財務CFが+)で賄っている状態と言われます。
審査におけるキャッシュフロー計算書の着眼点
営業キャッシュフローがマイナスとなる主要因には、利益の減少、売上債権や棚卸資産の増加、買入債務の減少などがあり、いずれも資金繰りを窮屈にする要因になります。また近年多い粉飾決算では、売上債権・棚卸資産・買入債務といった営業循環内の科目以外の流動資産(立替金・仮払金・未払金など)に大きな変動が生じています。営業キャッシュフローのマイナスが2期以上続く場合は、資金繰りの状態をより精査する必要があると言えるでしょう。
しかし、中谷が最後に言ったように、キャッシュフローはあくまで現預金の増減を示すものであり、いわゆる動態分析に当たります。資金繰りの良否は、「そもそも現預金がどれだけあるか」と併せて見る必要があります。多少キャッシュフローが悪くても、びくともしないだけの蓄えがあれば、当面は大丈夫との判断ができます。もちろん、蓄えはいずれ尽きますから、キャッシュフロー悪化を軽視することはできないのですが・・・。
従来の財務分析においてフローを利益額、ストックを自己資本(比率)で見るならば、現預金のフローはキャッシュフロー、ストックは現預金額となります。
「利益は出ているが、連動してキャッシュの蓄積はできているか」
「キャッシュフローが一時的に悪化しているが、持ちこたえるストックがあるか」
そうした観点で見ることが重要です。
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