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  • 与信限度と設定方法 ~万能な方法はない~

2013.11.01

[企業審査人シリーズvol.6]

異動当初、青山は審査の仕事について、「取引していい先かどうか」と「取引するならいくらまで取引するか」を判断して営業にフィードバックする仕事だと聞いた。その「いくらまで」を示すものとして与信限度額がある、とも聞いた。
 与信申請書には申請与信額の記入欄があり、営業マンが金額を書いてくる。審査課は審査をしてその下にある与信限度額の欄に限度額を記入し、営業部門に返す。
 しかし青山は与信限度額をどのように決めているのかが、営業部にいる頃から気になっていた。申請額と大きく乖離した限度額を示されたことはなかったと記憶している。異動して2ヵ月目のある日、職場に慣れてきた青山は、水田に聞いてみた。
 水田は煎餅の袋を開けながら、「青山君、そりゃゴッドハンドだよ」と穏やかに笑った。
「まあそれは冗談で、一応のめやすはあるが、何かの計算式で一律に決めるようなことはしてないんじゃ」
そう水田は続けた。
「与信管理の本を読むと、ずいぶんいろんな設定方法が紹介されていますよね」
「そう、いろんなのがあるが、そのまま使える方法はひとつもない。帯に短し、襷に長し、というやつじゃ」
「そうですよね。営業が上げてくる希望与信額は案件によって違いますもんね」
「そうじゃ。だから一定のロジックで上限と下限を決めて、あとは案件ベースで匙加減するのじゃ」
「匙加減ですか・・・」青山はつぶやいた。このベテランの匙加減というやつこそ、キャリアが浅い人間には厄介だ。青山はしげしげと水田の顔を見ながらそう思った。

与信限度額とは?

 企業間取引において「付き合うか否か」の次に出てくるテーマとして、「どこまで付き合うか」があります。これをコントロールするツールとして与信限度額というものがあります。
 取引の限度額を決めておくことによって、これを超えないように管理するとともに、超えた場合にアラームを鳴らしてリスクをセーブする、という機能を持たせることができます。そう言えば、その与信限度額の決め方さえわかればバッチリ管理ができそうですが、実際のところはなかなか難しいのが実情です。

万能の算式はない?

 与信限度額の算定方法には市販の書籍にも多く紹介されており、その多くは自社の属性を基準としたものと相手先の属性を基準としたもの、その中でもそれぞれ積極的にリスクをとるものと安全志向のものに分類されます。
 自社属性に基づく方法としては5年間粗利法という取引商材の粗利益の5年分を限度とする方法や、財務負担可能額法という自社年商に売上伸長率や限界利益率を乗じて算出する方法などがあります。
 ただこれらはいずれも相手先の信用状況を加味しないリスクを負います。一方で相手先の属性に基づくものとしては月商1割法という相手先月商の10%以内に抑える方法や、内部留保基準法という相手先の自己資本の10%以内を限度とする方法などがあります。いずれもリスクについての一定の考え方に基づく方法ですが、お気づきのとおり、実際にこれらを適用すると、案件に対して限度額が大きすぎたり小さすぎたりして、計算通りにはいきません。そもそも企業が扱う商材や案件によって取引額はまったく異なるわけですから、万能の限度額算出ロジックはないのです。したがって、水田の言うようにいくつかの方法を組み合わせて上限・下限だけを決めておく運用が現実的です。その中で、水田の「匙加減」のような経験やノウハウが色濃く反映されます。

与信限度がすべてじゃない

 与信限度はその設定の要否を含め、会社の方針や体制によって運用が変わります。精緻な与信限度ロジックを決めても、実際に営業部門に強制できなければ意味がありません。「取引先との付き合い方」を管理する方法はほかにもあり、与信限度がすべてを解決するわけではありません。このお話は次回につづきます。

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