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  • 老舗2万6千社に学ぶ生き残る企業の条件~地域・財務傾向~

2016.11.05

 前回は業種から老舗企業の特徴を見ていきましたが、今回は、老舗企業を地域の視点で見ていきます。老舗企業が多い都道府県はどこなのでしょうか。
 やはり、古くからの都である京都がトップに立ちました。京都は歴史的建築物が多くあったことから、第二次世界大戦中の空襲被害が比較的少なかったことなどが老舗企業の存続につながったのではないかと思われます。

老舗が多い地域はどこか?

(表)都道府県別「長寿企業輩出率」
 2位から4位までは、いずれも日本海沿岸の地域です。また、6位福井県、8位富山県を含めると半数の地域が日本海側に位置してます。これらの地域に共通するのは、北前船の寄港地として江戸時代から商業や地場産業が発達していたということです。
 そして福井県に運ばれた産物の商いをしていたのが、第5位の滋賀県の近江商人ということです。こうした理由から、日本海沿岸の地域が老舗企業の割合が高い地域の上位に位置しているのです。
 ちなみに、老舗企業数が最も多い都道府県は東京都です。しかし輩出率でみると、41位と下位にとどまります。このほか、神奈川、埼玉、千葉と首都圏の都県はいずれも下位に位置しており、老舗企業数も多いが全体の企業数も多いため、輩出率から見ると、ランキング下位にとどまるのです。
 また、最下位は沖縄県です。そもそも老舗企業が19社と極端に少なく、輩出率は都道府県で唯一1%を下回っています。これは太平洋戦争ので沖縄全土が壊滅的な被害を受けたことが影を落としているといわれています。

財務指標からみる老舗の強み

(図1)収益性の比較 総利益率は低位な老舗
 老舗企業には一般的に「手堅い」「安定している」というイメージがありますが、実際のところどうなのでしょうか。帝国データバンクが保有する財務データベースCOSMOS1から老舗企業平均と、全業種平均の財務指標を比較した結果が下の図1です(2012年時点のデータによる)。
 まず、収益性について検証してみました。すると、売上総利益率いわゆる粗利については老舗企業のほうが低いことがわかりました。
 しかし、営業損益、経常損益段階になると、逆転します。営業利益率は全業種平均では赤字なのに対し、老舗企業は1.25%、経常利益率は企業全体が0.02%とほぼ収支トントンに対し老舗企業は1.43%といずれも上回っています。
 この結果から、仕入原価が高めである反面、内部コストを低く抑えて営業利益を捻出し、保有株式や土地・建物など蓄積した資産を活用して本業外で収益を生み出す老舗企業の姿が浮かび上がってきます。つまり本業にプラスして副業が安定しており、そこでしっかり稼いでいる企業が老舗には多いということです。
(図2)安全性・効率性の比較 老舗は自己資本比率に優れるが・・・
 次に、安全性・収益性の指標を見ていきます。太字で囲われた部分が企業全体の平均で、ブルーの網掛けの部分が老舗企業の平均です。企業全体の平均を1とした場合の老舗企業平均の比率を表示しています(図2)。するとどうでしょうか、安全性・収益性指標で見る限りは、老舗企業は決して財務面で優れているわけではないことがわかります。
 特に財務の効率性をみる「総資本回転率」「棚卸資産回転期間」「固定資産回転期間」の3指標が低いことが分かります。特に注目したいのは、棚卸資産回転期間(棚卸資産÷月商)です。全業種平均の0.98カ月に対して老舗企業は1.54カ月と約5割も大きいのです。
 過剰な在庫はキャッシュフローの悪化を招くことから、在庫は少なくすべきというのがひとつのセオリーです。
 しかし、何度も危機に直面してきた老舗企業は、その経験上在庫を多めに保有しているという姿が浮かび上がってきます。合理化を追求しすぎず、不測の事態に落ちいったときにもリカバリーができるよう在庫や設備に余裕を持たせている。それが老舗企業の特色のひとつであろうかと思います。老舗企業には、事業規模の拡大をいたずらに追い求めるのではなく、まずは、事業を継続し次世代に引き継ぐこと、これを最優先事項に掲げている会社が少なくありません。そうした経営のポリシーがこうした財務面に反映されているのでしょう。

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