老舗2万6千社に学ぶ生き残る企業の条件~老舗は変化を恐れない~
2016.12.02
創業以来のピンチについて聞いてみたところ、戦争をあげる企業が最も多く、回答企業の3分の1が戦争をあげています。戦争といっても、太平洋戦争だけではありません。京都では「この前の戦争」といえば、応仁の乱(1467-77年)のことを指すといいますが、老舗企業の中には実際に応仁の乱を経験している企業もあります。
創業以来のピンチとなった出来事・事件
どのような困難があったのかその具体例をいくつか見ていきましょう。
「原爆ですべてを失った」(帆布製造・広島)
「空襲で全焼」(清酒製造・愛媛)
まず戦争では、空襲により社屋や工場が焼け、資産を失ってしまったという事例です。
「3代目社長の出征」(米麦卸・宮城)
「後継者の戦死」(貸家業・福島)
「職人の出征により技術力が低下」(時計眼鏡小売・東京)
戦争はモノだけでなく、ヒトも奪います。社長といえども出征から逃れられず、後継者を戦争で失った老舗企業も少なくありません。
「材料が手に入らなくなり一時廃業」(生菓子製造・福島)
戦争による統制経済下で、物資の調達もままならず、やむなく一時事業を停止せざるを得ない事態に陥った老舗もあります。
また、災害も約2割の老舗企業が危機として挙げています。近年では、東日本大震災が記憶に新しいところですが、地震だけではなく、台風による水害も頻繁に起こっています。
このほか、火山の噴火や火災を上げた老舗もありました。老舗企業は、長い業歴の中でこうした多くの天災、災害を経験して今日を迎えているわけですが、ここでもどのような困難があったのかその具体例を見ていきましょう。
「関東大震災で東京の得意先がすべて全焼」(缶詰製造・京都)
「阪神大震災による受注キャンセル」(陶磁器製造・三重)
この例にあるように、地震は直接的な被害は言うまでもなく、取引先が被害にあったために、受注が急減し、経営の危機におちいったという例も多いのです。このように災害は直接的な被害を受けていなくても、ダメージを受けることが往々にしてあります。東日本大震災関連の倒産状況を見ても、おおよそ9割が間接的な影響をうけての倒産であることが、当社の調べで判明しています。
老舗が生き残っていくために必要なもの
次に、「進取の気性」が上げられている点に注目してください。老舗企業はえてして伝統を重んじて変化を避けると思われがちですが、実は、時代に合わせて変化し続けなければ生き残れないということをよく知っているのが老舗企業であるということがこの回答結果から浮かび上がってきます。個別の回答例からも、「変化への対応力」(土木工事)や「新しい時代のニーズへの適合」(呉服小売)など、「新しい」、「変化」といった単語を上げた企業が目立ちました。
老舗企業の社風を漢字で表すと・・・
また、「堅」はいかにも老舗らしい漢字です。事業を急に大きくしたりしない、借金はしない、まじめで「堅い」商売をする、そうやって老舗の今がある。一方で、「進」という文字。これは、老舗の進取性を表すものでしょう。前に進む姿勢がなければ、ここまで続いていないはずです。
老舗は変化を恐れない
だから将来に向かっては、家訓、社訓、社是などを媒介にして思いを伝えていくことになりますが、そこには長年の経験に裏打ちされたメッセージが込められています。
そして、結局、続いている企業というのは、地域社会の中ではどっかりと根をおろして続けているという特性を持っています。老舗が老舗として存在していく理由は、なによりも老舗が社会に受け入れられていくことにほかありません。
そのためには長く育ててきた根っこや幹を、かたくなに愚直に守り続けながらも、常に光合成を行い、枝を伸ばして、新しい緑の葉を生い茂らせる必要があります。言い換えれば、老舗には「保守性」と「革新性」という、相反するものを同居させ、しかもそのバランス、調和を取っていかねばならない。それこそが老舗の老舗たるゆえんであり、老舗が老舗として永続する条件なのではないでしょうか。そのためには「老舗は変化を恐れない」ことが老舗企業の条件になるのではないでしょうか。