企業の存在価値を探る~未来予想図を描くⅡ~
2014.02.07
中谷と青山の会話は続いていた。
「事業が正しくわかっても、それが将来性のあるものかって、なかなか見極められそうにないですね」
「そうよ。外部環境も変わるからね。あるときの強みが弱みに変わったりするし」
「ここ数年の半導体業界や電機業界を見ると、まさにそうですね」
青山は新聞の見出しを思い出しながら、さらに中谷に質問した。
「うちの営業パーソンでも、そのあたりをうまく見極められるようにするには、どうすればいいでしょうね」
「最近、若手の営業パーソンと話をするときに奨めていることがあるのよ」中谷の大きな眼鏡が光ると、
「何ですか、それは」と青山も興味津々に聞いた。
「ほめられてる?子供みたいですね」そう笑う青山に、中谷は大まじめな顔でつづけた。
「会社は世の中のどこかで役に立っているから存続してるのよ。企業が存続するのは、誰かに重宝されているからでしょ?だから、何を重宝されているのかを聞けってことよ」
青山は、わかったような、わからないような顔をしている。
「そこがその会社の生命線なのよ。それがわかれば、その会社の未来予想図が何となくイメージ出来るわ」
「未来予想図ですか」
青山は大袈裟だなあと思いながら、先日カラオケでドリカムのメドレーを歌っていた中谷を思い出した。
事業の強みを見極める
顧客にとって「なくてはならない」度合いの強さが、その会社の生命力を左右します。顧客に「別にそこじゃなくていいけど」と言われる会社は、取引を切られる可能性があります。「よそより安いからね」という理由なら、もっと安い会社の登場により代替される危険があります。
何で勝負している会社か
前者は自社で独自の商材やサービスを開発する会社であり、その強みは商材やサービスの競争優位性、すなわち市場でどれだけ魅力的な価値を提供できるか、競合の中で生き残れるだけの独自性があるか、によって計ることになります。自社ブランドや発明品を持っていなくても、他にマネできない加工技術を持つ町工場、難しい技術を駆使したプログラムを開発できるソフトウエア業者などもここに含まれます。
一方、後者は極端に言えば「どんな商材でも売ってしまう」営業力を強みとします。ただ営業力にもいろんな営業力があります。例えば、押し売りの営業力と相手のニーズを引き出す営業力では、営業力の質が異なります。どれだけ質の高い営業力を持っているか、すなわち顧客が必要とするものを瞬時に提案できたり、顧客が求めている情報を持ってきたり、といった付加価値をどれだけ持つかが、その会社の永続性を左右するわけです。
こうした力を見極める手段として、「その会社がその顧客に何を評価されているのか」を聞くことがあるのです。ちなみに、販売代理店やチェーン店といった業態の会社であれば、本部となる仕入先の評価を聞くことが、強みを探る上で役立つことがあります。代理店やチェーン店であれば、本部から指導されたり、表彰されたりする機会があるものです。車のディーラーであれば「地区で一番リピート率が高いことを表彰された」であるとか、携帯電話販売会社であれば「従業員の定着率が一番高いことをほめられた」であるとか、何かその会社の強みを読み解くヒントが出てくるはずです。
なお、何を評価されているのかがわかったら、それが何に立脚したものかを深掘りすると、強みがより鮮明になります。「あの職人の腕が命」「社長の営業力が命」という会社は、一代限りで終わらぬように技術や力の伝承ができているかがポイントとなるわけです。こういう観点で会社を見ていくと、ただ財務比率を見て善し悪しを判断するよりも、審査の仕事が面白くなるはずです。