連休と取り込み詐欺 ~彼らの収穫期~
2014.04.25
「昨日は新興企業の与信の話が出ましたけど、被災地での取り込み詐欺についての記事が載ってますね」
昼休みに帝国ニュースを見ていた青山が水田に声を掛けた。
「被災企業の混乱や売上回復を焦る心理を利用するなんて、ホントに許せん話じゃの」と水田が湯飲みを持ちながら憤慨した面持ちで答えた。
「だいたい景気がよくなるとおいしい話が出回るもんじゃから、うちの営業も騙されないようにせんとな。景気が悪いときは売上がほしくて飛びつくもんじゃが、景気が良くなると今度は世の中が浮かれた感じになって、売上に焦らなくてもついつい話に乗ってしまう、なんてこともあるからの」
「取り込み詐欺業者のチェックは商業登記から、でしたね」
青山はかつて教わったことを思い出していた。
「そうそう。商号や本店がころころ変わっているものや事業目的が脈絡なくたくさん載ってる、なんてのは古典的なものじゃな。そうしたちょっとしたことでも防げるもんじゃ」と水田が続けた。
「でも外回りの経験から言うと、だいたい相手の雰囲気でわかりそうなもんですけどね」
「まあ、そういう取引は電話やネットで始めることがあるからね」青山の言葉に秋庭が続く。
「うちの営業は新規取引では現地調査を義務づけているから、あとは営業がどれだけ鼻がきくかですね」
「そういえば、営業用のヒアリングシートの改訂案をつくるって言ってたけど、秋庭君、できたの?」
経済誌を読んでいた中谷が突然会話に入ってきて、秋庭の顔に「しまった」という文字が浮かんだのを見て、水田がフォローに回った。
「来月の課会に間に合えばよいじゃろ。そういえば今年ももうすぐゴールデンウィークじゃな。毎年この時期は取り込み詐欺業者が仕掛けて行方をくらますと言われておる。最近取引が始まった先で、連休前に取引額が増えている先は、発送前にチェックした方がよいな」
連休は取り込み詐欺被害が増える時期
最初の2~3回の発注と支払いで相手の信用を引き出し、連休前に大口の取引を仕掛けるわけです。連休を挟むので、「収穫」を終えた詐欺業者は「撤収」の時間を稼ぐことができ、被害者側も気づくのが遅れることになるのです。こうした取り込み詐欺がいつの時代もなくならないのは、刑事事件としての立件が難しく、被害者が泣き寝入りせざるを得ないからです。
考えてみれば、企業取引は相手を信用して取引することで成り立っており、相手が信用できるかどうかを見極めることはビジネスの根幹と言えます。どれだけ経済技術が発達しても、取引企業の目利きは商売においてなくてはならない機能なのです。
詐欺業者を見分けるために
したがって、詐欺業者が判明したときに商業登記の役員の氏名を見ると、繰り返し登場する人物が出てきます。したがって、不幸にも詐欺業者の被害を受けた場合は、そのときの相手の商業登記は保存しておくと、役立つことがあります。同業者や関係者に信用照会を行う場合も、社名だけでなく社長や役員の名前を伝えて行う必要があると言えるかもしれません。なお当然ながら、調査会社にはこうした情報のストックがあります。これらの情報ですべてを見抜けることはありませんが、気になる取引では、まず調査会社の担当者を通じて確認を試みるとよいでしょう。