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  • 従業員・設備概要その1【従業員情報】~報告書の読み解き方-5~

2014.07.18

[企業審査人シリーズvol.42]

「さて、レクチャー再開ですけど、どこまで行きましたっけ」と中谷の後ろ姿を見送った横田が青山に聞いた。
 「登記・役員・大株主のページが終わったところでしたよね」と青山が言うと、「そうでした。最初のページでかなり時間を使っちゃいましたね」と横田が頭を掻いた。
 「いや、教えていただかなければ素通りしてしまうような項目もあったので、面白かったです。次は従業員・設備概要のページですね」と青山は前のめりにページをめくった。

 「従業員数って、ほかのアンケートでも『社員だけなのかアルバイトも含むの?』ってわかりづらいときがありますけど、報告書では内訳があるので迷わないですね」
 「今のフォーマットになってから内訳が表示されるようになりました」
 「過去の履歴が載っていますけど、報告書によって年月のスパンが違いますね」と青山が聞く。
 「ええ、時系列で最大6回分を表示できるんですが、これは調査の頻度を表していることが多いです。定期的に調査が入る会社なら履歴が細かくなりますし、調査があまり入らない場合は期間が空くことが多くなります。もっとも、人数の変化が少ないときは過去分を省略することもありますけどね」

従業員

「COSMOS2に掲載されている従業員数はアルバイトも含む合計ですか?」と青山が質問を重ねた。
 「そこに戻りましたね」と笑いながら横田が答えた。「COSMOS2にはここにある正社員数のデータを表示しています。従業員と言うと一般には雇用形態に関係なくその会社の業務に従事する人の総数を指すことが多いようですけど、うちの場合はそうではないので、注意してください。常勤役員も従業員数には含まないので、0名となっている場合は、役員だけで商売をしているという意味になります」
 「ときどき、本当にこんなに社員がいるんだろうか、という会社も見かけますが・・・」
 「社員数は調査先の公表値を掲載することが多くなりますが、確かに、私たちも調査をしていてそう思うことがあります。ソフトウエア業者のようにほとんどの社員が常時受注先にいる、ということもありますが、社員と言いながら出来高契約の従業員だったりすることもありますね」
 「そうなんですね。従業員は人数から会社の規模感をイメージする程度にしか見ていませんが、与信管理的な見方ってありますか?」
 「そうですね。昔はここに労働組合の結成状況が書かれていて、労使関係に関する情報が重視されていた時代もありましたが、今はそういう見方は少なくなっていますね。従業員数については総数の変化をよく見ておく必要があります。会社にとって従業員採用は投資ですからね」
 「急に減ったりしているときは、リストラということですね」と青山がうなずいた。
 「そうです。その場合は期末に特別退職金の支払いで一時的な費用増加となり、赤字になる会社もあります。逆に急に増えるのも要注意ですよ」

従業員も変化が重要

従業員数も登記事項と同様、「変化」に着目したい情報です。短期間で大幅に減少している場合はリストラが想定され、逆に大幅に増員している場合は将来の拡大のために思い切った投資をしていることになります。
 大幅に増えている場合は、教育体制によっては実績が追いつかない可能性もあります。店舗を急拡大した飲食店が社員教育の遅れで評判を落とし、業績を悪化させるというのはよくある話です。増員に見合った増収効果を得られないと会社は赤字になるわけですから、従業員数と売上高の推移を比較検証することが大切です。増員・減員のいずれも、幅が大きい場合は「付記」に理由を示していることがあるので、併せてチェックしましょう。
 従業員数は内訳を取材するようにしていますが、先方の公表がない場合の内訳の推測は困難ゆえ、公表値をそのまま掲載することが多いので、その点はご留意ください。
 出向者を受け入れている場合は、取引先との関係が安定的かつ密接という評価できますが、一方で受入先の経営状態が悪い場合は、コストを押しつけられる可能性もあるので、信用状態の確認が大切です。

従業員数と年商規模の対比

従業員数と年商規模には当然ながら一定の比例関係があります。もちろん業種によって比例の規模は異なりますが、TDBが発行している「全国企業財務諸表分析統計」の最新版(第56版)によると、1人当たり売上高は建築工事業で6,000万円前後、洋服卸売業で7,500万円前後、食肉小売業では5,000万円前後、ソフトウエア業で1,800万円前後です。
 昔の調査員は、取材協力が得られない会社の事務所で、机の数を数えて年商を推定したという話がありますが、こうした推定は上記のような業種別の「ものさし」を持っていれば「当たらずとも遠からず」の結果を導くことがあります。
 事業の実体を見る上では、従業員数と業態・年商規模を対比しましょう。メーカーや建設業者の場合、従業員数が少なければ外注依存度が高いことがわかります。決算書が添付されている場合は、製造原価明細の人件費や販管費明細の給与手当との照合も可能です。厳密な対比は困難ですが、社員数に比べて給与手当が少額の場合は、横田が言ったように実は業務委託契約の従業員になっている可能性があります。売上規模や収益性に疑問があったり、事業の実体性に不安があったりするケースでは、こうした検証的な視点が不可欠と言えます。

続き(従業員・設備概要その2【設備情報】)は こちら

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