代表者その3【関係事業】~報告書の読み解き方-10~
2014.08.22
「脱線しますけど、代表者の情報って、取材しづらくないですか?」と青山がコーヒーを片手に質問した。
「まあ、昔と比べるとそうかもしれませんね。うちの昔の報告書には、『性格』なんていう項目がありました。『おおざっぱである』とか、調査員の主観で自由に書いていたようです。もう何十年も前の話で、今じゃ考えられませんね。弊社は1970年代まで雇用調査といった個人調査もやっていましたから、そうした背景もあったのだと思います。ただ、経営者の情報が与信管理の上で重要なことは今も昔も変わりませんし、多くの経営者の方々が『公人として商売をする以上は一定の情報開示が必要だ』と考えていらっしゃるので、取材に応じていただけますね。やはり経営者は会社の顔ですからね」
「でも、なかなか話をされない経営者もいらっしゃるのでは?」と、青山は目の前の横田をしげしげと見た。
「初めて訪問させていただいた先では、まず私たちを信用いただいてから、社長個人の話を伺うようにしています。ただ、創業社長の会社の事業を取材するときは、社長のご経歴から話を伺うと、今なぜそういう商売をされているのかがよくわかります。ときどき社長に、『あなたに話をしていると自分のやってきたことややりたいことが整理できたよ』と言っていただくことがあります。取材が相手に役立つこともあるんだと実感しますね」
代表の経歴
「経歴の下が残っていますね。『関係事業・公職・その他』と『趣味・スポーツ』。『趣味・スポーツ』は営業で使える情報ですよね。関係事業や公職も、やたらと肩書きが多い社長がいますね」
「『関係事業・公職・その他』の欄には代表者が他社の役員を兼務している場合にその役職、ほかに商工会議所とか何とか事業組合の理事とか、そういう公職を持たれている場合に掲載しています。ただ公職には大小あるので、町会の役員や何とか小学校PTA役員といったレベルまではカバーしていません。事業活動に関係がありそうなところを、取材できる範囲で掲載しています。ここにいっぱい書いてあると、すごいヒトなんだなあ、とか思いますか」と横田が聞いた。
「やっぱりそうですねえ。僕なんか、兼務も公職も何もないですから、そう思いますね」
「まあ、一般的にはそうですよね。ただ、ここも中身をよく見ないといけませんね。中小企業の場合は税務対策とか暖簾分けとか相続対策とか、いろんな事情でグループ会社をいくつも持っている経営者がいます。そういうグループ会社がある場合、経営者は必然的に兼務が多くなります。兼務している理由が大事です。自分ですべてを掌握しておきたいタイプなのか、単に任せるべき人が他にいないのか、肩書きをたくさん持っていたい人なのか。いろんな理由が考えられて、そこに経営者の個性が出ると思います」
「そういえば、詐欺師が何種類もの自分の名刺を相手に示して信用させていたっていう話を聞いたことがありますね」と、青山はワイドショーで見たひげ面の顔を思い出した。
個人情報保護法への対応
関係事業と公職
公職は一線を退いた会長職が会社の事業推進や対外活動を円滑にする役割として担い、社長が本業に専念する、という分業が一般的ですが、そういうところにもその企業のガバナンスの状態を見ることができます。
なお兼務先の会社については、後で登場する「関係会社」にも掲載されるケースが多いものですが、「関係会社」ではない兼務先がある場合は、その就任経緯や関係をつかんでおきたいところです。単に知り合いの会社に名前を入れているだけなのか、実務を担っているのか、相手はどういう会社なのかといったことが重要になります。
企業信用調査
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調査報告書の読み解き方コラムシリーズ
・従業員数・設備の内容から「ヒト」「モノ」の能力を測る<従業員・設備概要>
・社長の経営経験・リーダーシップを判断<代表者>
・企業の歴史は将来を占う指針<系列・沿革>
・最大6期の業績から収益性をチェック<業績>
・支払い・回収条件は?取引先との関係は?<取引先>
・メインバンクとの関係は?資金調達力は?<取引銀行>
・必要な資金を確保しているか?不良債権はないか?<資金現況>
・企業の現在と将来像をつかむ<現況と見通し>
・企業経営の健全性を把握<財務諸表>