業績その2【減価償却と特記事項】~報告書の読み解き方-14~
2014.09.26
業績のページについての話がまだ続いている。
「業績の取材って、調査員の方にとっても取材のハイライトみたいな感じなんですか?」
「それはそうですね。感覚的には、その調査で入手すべき業績数字を入手できれば、その調査は半分くらい終わったくらいの感じがあります。それだけ、重要な情報だと思っています」
「でも決算書も粉飾決算があるくらいだし、中には数字を大きく言うような経営者もいるんじゃないですか?」
「そこは経営者も人間ですから、そういう誘惑にかられたり、実際にそうしたりする会社さんもあると思います。ただ、調査員はだいたいこの業種でこのくらいの人数でやっていたら、これくらいの売上かな、とか、この売上規模だったら普通経常利益はいくらくらいだな、という数字感を持ってますから、おかしいと気づくことが多いと思います。利益のほうはいろんな要素があるので、難しくなりますけどね」
「なるほど。でもおかしいと思ったら、どうするんですか?」
「調査員によって対処は違いますが、やんわりとその検証をしていきますね。売上はどれだけ大きくても、結局のところ単価×数量ですし、数量はどこにどれだけ売ったか、単価は何を売ったか、といった分解ができますから、そういう内訳数字というのは数値の検証ではとても意味を持ちますね。あとは、同じことを二度聞くこともありますね。人間、事実はよく覚えていても、嘘はすぐ忘れるって言うでしょう」
「確かに、そうですね」と、青山は学生時代に親に内緒で当時の彼女と旅行に行ったときのことを思い出した。旅行のことはよく覚えているが、親にどう嘘を付いていたかはまったく記憶にない。数秒ぼやっとしてから、青山は頭の中に浮かんでいた旅行の記憶を消しゴムで消すように、話題を変えた。
「そうです。弊社の調査で数値を確認できていない期については表示されないようになっています。減価償却を実施していないことがわかっている場合は『0』と表示します。本来やるはずの減価償却費をやっていないというのは要注意情報ですからね」
「その下の業績特記事項というところは、ボリュームが多くて読むのが大変なときがあります」
「ここは、表に掲載した業績期の背景を説明する部分ですが、6期分になるとかなりボリュームが増えます。毎年調査が入る先の場合、ここは基本的に『現況と見通し』というページの『最新期の業績』の記載内容をこちらに移していく形をとっているので、前回までの調査報告に掲載されていた期の説明内容が変わるということはほとんどありません。決算数字が違ったとか、新たな事実がわかったとかいう場合は当然修正しますけど」
「数期分まとめて書かれている場合もありますね」
「その場合は久しぶりの調査で、数字に大きな変化がない場合か、期別の詳細が把握できない場合ですね。数字の動きが少ない場合はむしろまとめた方が大局をつかみやすくなるので、最近は私もそうしています」
減価償却費の重要性
設備投資負担が大きい会社は、設備投資直後に減価償却負担によって赤字になることがありますが、この分はキャッシュアウトしているわけではないので、資金繰りを考える上では差し引く必要があります。一方で減価償却負担は年々軽くなり、利益が出るようになるのが普通ですが、そうなっていない場合は設備投資のときに目論んでいた売上が立っていない可能性があります。
設備投資については常に「予実」を検証する視点が重要です。また減価償却費は借入金の返済原資をイメージする材料でもあります。今はキャッシュフロー計算書がありますが、当期純利益に減価償却費を足し、配当などの社外流出を引いて年間の原資を計算する方法が主流です。
一般の企業は税務対策を考慮して法定償却枠の目一杯減価償却を行うのが自然の姿ですが、償却資産があるのに償却を行っていない場合は、利益捻出のために見送るなどの苦境が想定されます。
業績の背景を確認する
業績の推移で数値の動きでトレンドを見たあと、この欄で期別の理由を確認していく流れになります。期別の要因はありますが、ここでも業績を縦に串刺しにして「売上は回復しているか」「粗利益率は改善しているか」「(販管費の)スリム化はできているか」を、その理由とともに検証しましょう。また業績への影響が大きい営業外損益や特別損益についても、取材で把握しうる範囲で内容を説明していますので、確認しておきましょう。
企業信用調査
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調査報告書の読み解き方コラムシリーズ
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・最大6期の業績から収益性をチェック<業績>
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