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  • 財務諸表分析と損益分岐点分析~報告書の読み解き方-28~

2015.01.30

[企業審査人シリーズvol.69]

「財務諸表分析表はご覧いただいていますか?」と、49万頭の牛飼い・小滝が青山に聞いた。
 「ええ、参考にさせてもらっています。でも、水田さんっていうベテランの先輩がいて、『最近のやつは自分で計算しないから、いつまでも計算式がわからない』なんて、ぼやいていますよ」
 「分析比率の意味を知っておくのは大切ですけど、ご自分で計算するのは大変ですよね」
 「ええ、ときどきここに載っている以外の比率を出すときは、自分でやってますけど、たいていはここの比率で足りますね。このA・B・C・D・Eの表示も参考にしますが・・・これはどうやって表示しているんでしたっけ?」
 「『業界内ランク』ですね。同業、つまり同じ産業分類コードの会社の中での、分布状態を示しています。Aランクは上位20%未満に入っているという意味で、逆にEは下から20%未満という意味です。BとDはそれぞれ20%以上40%未満、Cは40%以上60%未満という真ん中になります。この分布は財務諸表が入手できている企業数で切っているので、全体の分布が詰まっているときは、ランクの刻みも狭くなります」
 「基準比率は単純に業界の平均ですよね?基準比率と比べるのと、何か違うんですか?」
 「基準比率は、正確には業界黒字企業の平均です。黒字企業というのは、弊社では経常利益が黒字で、かつ債務超過ではない会社を指しています。赤字企業や債務超過の会社だとマイナス値で相殺されてしまう指標もあって、黒字企業の数値を載せた方が参考になるだろう、という考えです。当社の場合は中小零細企業のデータを多数扱いますし、赤字企業の母数が多いので、そうなっているのだろうと思います。基準比率と別にあえて業界内ランクを示しているのは、平均と分布が異なるためです。例えばこどもの集団の年齢構成が1歳・2歳・3歳・4歳・10歳という場合、平均は4歳となって、実際の集団とイメージが違いますよね?この場合、業界内ランクでは“位置づけ”が表現されますので、平均値と併せて見ていただくとよいと思います」
 「なるほど。ありがとうございます。さすが、何を聞いても即答ですね」と青山が笑顔を返した。
「あとは・・・分析値のレーダーチャートはわかりますし、運転資金分析も横田さんに見方を教わりました。損益分岐点計算書・・・これはあまり見ていないかもしれません」
 「そうですか。確かに損益分岐点は自分の会社の分析をするときに見ることが多いって言いますので。費用を固定費と変動費に分解して、売上がどこまで減ると赤字になるか、がわかります」と小滝が答えた。
 「固定費と変動費も、50万頭のように・・・いや、勘定科目みたいに、ササッと分けられるんですか?」
 「当社の中でどのように分けるかのロジックを持っています。当然、科目によって仕分けるので、例えば製造原価明細の材料費、外注費、運賃運搬費、荷造包装費、修繕費、水道光熱費など、販管費であれば販売促進費、荷造運送費、特許権使用料などを変動費としています。固定費のほうは、製造原価明細であれば減価償却費、賃借料地代家賃、リース料、消耗品消耗備品費、租税公課、保険料などを、販管費はさきほど言った以外のものを振り分けます。営業外収益と営業外費用は、営業外費用合計から営業外収益合計を差し引いた金額を、便宜上固定費に加算しています。こういう作業は、自分の会社の経理データなら細かく分けられますが、私たちはできあがった決算書から生成するので、科目で分けていくしかありません。製造原価明細がない場合などは、一定の割合で案分するといった苦肉の対応もしています」
 「そうなんですね。でも損益分岐点分析は自分でも、固定費と変動費を分ける作業を誰がするんだろうと思うとやる気がしなかったので、こうして付けてもらっているのは助かりますよ」

分析表はランクと趨勢を確認

財務諸表分析表には、財務分析における収益性指標、効率性指標、安全性・安定性指標の14項目を掲載しています。個別指標の説明は省きますが、財務内容の良否や改善状況をざっくりと押さえるには手っ取り早い表なので、経験が浅いうちはまずこれで良否のイメージを付けてから、貸借対照表や損益計算書を見ていくのも方法です。
 ただ、良否の原因を探るには、やはり貸借対照表や損益計算書を読み解かなければなりません。例えば粗利益率が大きく変動しているという場合、その会社の実態の利益率が変わっている場合と、原価と販管費の計上方法をその期に変えた場合があり、こうしたことは原票を見ないとわかりません。刑事ドラマのように「証拠は現場に落ちている」わけで、分析結果だけでの判断は机上の捜査と同じく、危ういのです。
 分析表で大勢をつかむ上では、『業界内ランク』と改善状況を示す『矢印』を参考にしましょう。とくにDランクやEランクの表示は倒産企業に多く見られる傾向であり、シグナルと見て理由や程度を探ることが重要です。また、ランクのすぐ上にある矢印はその指標の改善傾向を示しています。良くなっているのか、悪くなっているのかを見ましょう。評点と同様、「趨勢」はその時点の良否と同じくらい、重要な情報です。

損益分岐点分析も参考に

損益分岐点分析はよく知られる経営分析で、損益計算のすべての費用を、家賃や固定給といった売上に関係なく一定に発生する「固定費」と、材料費や外注費など売上に連動して増減する「変動費」に振り分けて、その会社の売上がいくら以上あれば黒字になるのかを、グラフで示すものです。
 グラフは売上高と総費用の2本の線から成りますが、売上高の線は0からスタートし、総費用の線は固定費の総額からスタートします。売上の増加とともに総費用に変動費が加算され、売上高の線と総費用の線が交わったところが「損益分岐点売上高」(=利益が0になるポイント)になります。売上高が損益分岐点を超えると、黒字幅が増えていきます。
 なお分析表には「経営安全余裕率」という、損益分岐点売上高と実際の売上高の差を実際の売上高で割った指標を表示しています。経営安全余裕率が10%の場合、売上高が10%減少しても赤字にならないということを示します。小滝の説明にあったように、決算書から便宜的に逆算したものではありますが、黒字・赤字は企業収益の最大の焦点ですから、その中身を探る一助としてご活用ください。

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