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  • 国際会計基準(IFRS)とは ~違いが分かる男~

2016.07.04

[企業審査人シリーズvol.117]

得意先回りを終えたベテラン営業マンの八木田が、久しぶりに経理課の木下を訪ねてきた。
「どうも木下さん。ちょっと聞きたいことがあって顔を出しました」と、上着を片手にハンカチで額の汗を拭いている八木田を見て、木下は今年もそういう気候になったのだと改めて感じた。クールな木下は夏の盛りでも上着を脱いだのを見た人が周りにおらず、スーツのまま寝起きしているのではと密かに囁かれている。
「有価証券報告書を見ていたら、連結決算書は国際会計基準をチョイスしているという記載がありましてね。今更かもしれませんが、日本基準と国際会計基準の違いについて簡単にレクチャーしてもらえませんか?」
上場企業の有価証券報告書が次々と提出されるシーズンである。八木田は相変わらずカタカナが多い。
「6月は上場企業の株主総会と有価証券報告書の提出ラッシュですね。国際会計基準の決算書は私も作ったことはありませんが、日本基準と異なる重要ポイントがありますので、覚えておいて損はないですね」
飄々としている木下の目が光っている。クールな男の会計レクチャー魂に灯がともったようだ。

「ここ数年で国際会計基準とかIFRSといったキーワードをよく耳にするようになりましたが、いまひとつよくわかってなくて、クライアントとの会話が少々心配なのですよ。いわゆるグローバル化の流れということですな?」
「はい。ネット社会の深化といった背景もありますし、資金や企業が国を跨いで動いていることも背景となっています。必然的に、会計基準も国際的に統合しようとする動きが活発化してきたということですね」
「確かその会計基準の統合のことを、コンバージェンスと言うんですよね!」
「さすが八木田さん、横文字には詳しいですね。でも現状、IFRSの採用については検討している企業も含めて100社を少し超えるくらいしかなくて、本格的な浸透はこれからと言われています。加えて適用範囲はあくまで連結財務諸表ですから、単独は日本基準で行われているという点にも注意が必要です」
「連結決算を、日本基準・IFRS・米国会計基準からチョイスできる、ということですな?」
「そうです。おっしゃった3つの基準に加え、新たに修正国際会計基準も新設されています。これらをすべて話し出すと深夜になってしまうので、まずは日本基準とIFRSの大きな違いについて整理しましょうか」
「ええ、お願いします。明日訪問する先はIFRS適用企業ですから、ひとまずそちらでお願いします」
「両者の違いを説明するのは簡単じゃありませんが、平たく言うと日本基準はPL、IFRSはBSに重きを置いています。リスクのとらえ方も両者で違いがあって、そのために細かなルールに違いが生じています」
「売上の基準なんていうのも違ってくるんですか?」
「そう、売上の計上基準も大きな違いのひとつです。日本基準では商品を販売した時点で売上を計上しますが、IFRSでは商品が得意先にしっかり到着して検収されるまでは売上の計上が認められません」
「なるほど、それは売上に関するリスクのとらえ方の違い、ということですな。ではひょっとして、日本基準とIFRSで、最終的な利益も大きく乖離することがあるんですか?」
「ありますね。特に影響が大きいのが『のれん』の考え方ですね。『のれん』は無形の資産ですが、日本基準では毎期償却していくのに対して、IFRSではそれをしません。計上する『のれん』の金額が大きいと、基準の違いによって最終損益に及ぼす影響も大きくなります」
「『のれん』というのは、ブランドとかその会社の形のない価値・・・ということでしたかな?」
「そうです。連結会計や企業買収があった時に認識される無形の資産、超過収益力とも言われます。他にもいろんな相違点がありますが、そもそも決算書の構成も違いますから、注意が必要です。例えば損益計算書では、日本基準には営業外損益と特別損益がありますが、IFRSではそれらにあたる区分はありません」
「財務諸表の呼び方も少し違うとか何かに書いてありましたな」
「そうです。日本基準における貸借対照表、株主資本等変動計算書はそれぞれ、IFRSでは財政状態計算書、持分変動計算書となります。さて、八木田さんはそもそもIFRSが何の略かはご存じですか?」
「それは大丈夫です、インターナショナル・フィナンシャル・レポーティング・スタンダード(International Financial Reporting Standards)ですよね!」と、八木田がどや顔で答えた。八木田の解答が正しかっただけでなく、ReportingのRがきちんと巻き舌になっている発音を聞き分けた木下は、思わず舌を巻いたのだった。

■上場企業の連結財務諸表作成に認められた会計基準

平成18年「会社法(改正商法)」の施行以後も、「金融商品取引法」の成立や、国際会計基準(IFRS)とのコンバージェンスを進めるための取り組みなどから、会計基準等が追加・改正されてきました。大きな動きとしては平成22年から、IFRSによる連結財務諸表の作成が容認されるようになり、加えて平成25年6月には企業会計審議会より「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」が公表されたことにより、IFRS任意適用の要件が緩和されました。資本市場のグローバル化に伴い会計基準の国際統合化が加速する中、平成27年6月には日本基準・米国基準・IFRSに続く第4の会計ルールとなる修正国際基準が公表されました。なお、上場企業においてその会社が米国基準やIFRSを適用しているか否かについては、有価証券報告書における【主要な経営指標等の推移】の注記から確認することができます。

■日本基準とIFRSの相違点

二人の会話の中にも出てきたように、日本基準と国際会計基準では重要視しているものが異なることや、リスクへの捉え方の違いなどから、規定するルールに様々な相違点が見られます。それらについては非常に多岐にわたることから、ここでは特に取り上げられる事が多い事項や影響が大きい事項に絞って紹介します。
□ 損益計算書の営業外・特別損益項目について、日本基準は区分がありますが国際会計基準では区分が設けられていません。また、日本基準と国際会計基準では営業利益を構成する内容も異なります。
□ 収益認識(売上の計上基準)について、日本基準では実現主義に基づいていますが、国際会計基準は取引のタイプを「物品の販売」「役務の提供」「企業資産の第三者の利用」に分け、タイプ別に収益の認識要件を設けています。
□ のれんについて、日本基準では20年以内の定額償却がおこなわれますが、IFRSでは毎期定額の償却は行いません。なお、両基準とも減損が適用されます。したがって、IFRSでは減損が適用されたタイミングにおいて、日本基準に比べ大きな金額の減損損失が計上されることとなります。
なお、日本基準からIFRSに切り替えた企業によっては、有価証券報告書に「日本基準からIFRSへの調整表」が盛り込まれることがあります。それには、日本基準で連結財務諸表を作成したケースとの比較が示されていますので、IFRSを理解する一助になるでしょう。

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