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  • リース会計の話 ~クリスマス・シーズン~

2016.12.19

[企業審査人シリーズvol.127]

審査課の青山は来春に審査課長・中谷の与信管理講座で決算書のパートを持つことになり、図らずも具体的な目標をもらった。その日、青山は経理課の木下から教わった内容をまとめ、課長の中谷に報告した。
 「良いペースね。その調子で頑張りなさい」と中谷は満足そうだったが、「営業だった頃を思い出して、お客さまから聞かれて営業が困りそうなテーマを自分なりに整理しておいて」と、注文も忘れなかった。今まで自分の学習と割り切っていた青山が(そういう観点でも考えなきゃ・・・)と思いを巡らすと、すぐに気になるテーマが浮かんだ。動きの早い青山はその日のうちに木下のレクチャーと、会社近くの喫茶店の席を予約した。
 じっくり腰を据えて聞きたいという青山が選んだ店は、昭和が香る落ち着いた喫茶店である。ソファ席の赤革に年季が入っている。青山がブラックコーヒー、木下がロイヤルミルクティーを注文し、レクチャーが始まった。
「さて、木下さん、まだ自信がない分野が残っていました。リース会計です・・・」と、青山は真剣な顔である。
「とうとう来ましたか、リース会計・・・」と言いながら、木下は(それは話し甲斐のあるテーマだ)という顔をした。ミルクと茶葉の芳醇な香りを確認し、重ねて満足そうな顔をした木下が、青山に質問した。
 「ややこしいので、極力丁寧に話しましょう。そもそも、青山さんが難しく感じるのは、どういうところですか?」
 「リースは基本的には資産の割賦購入ですよね。でも、リースを使っていて資産も債務も決算書に計上されないパターンがありますよね?審査で決算書を見ていても、リースの利用程度がわからないことがあります」
 「そこまで知っていれば話は早い。リース会計には2つの処理方法があって、リース資産とリース負債を計上する売買処理と、オフバランスでリース料を支払ったときにその額を費用計上する賃貸借処理があります」
 「でも、それは極端ですね。その選択ひとつで貸借対照表から資産・負債が消えてしまうなんて、実態の負債額がわからなくなってしまいませんか?」と、青山は会計処理方法への不満を木下にぶつけている。
 「まぁまぁ、落ち着いてください。これらの処理は各々の処理を自由に選べるわけでじゃなくて、リース契約に基づいた会計処理がベースとして要請されているんです」
 「なるほど、ちょっとまってください、メモしながら聞きますので・・・」
 「いいですか?会計上はまず、リース取引を『ファイナンス・リース取引』と『オペレーティング・リース取引』に区分します。前者はごく簡単に言うと、実質的に解約不能でリース物件のほぼコスト全額を負担する契約です。そして、後者はファイナンス・リース以外の取引、というイメージです」
 「『ファイナンス』のほうは、所有権は借り手に移るんでしょうか?」
 「さすが、鋭いですね。『ファイナンス』はその点でさらに2つに区分されます。『所有権移転ファイナンス・リース』と『所有権移転外・ファイナンス・リース』で、意味は読んで字の如くです」
 「細分化されますね・・・。両者でまた会計処理が分かれるんでしょうか?」
 「以前は分けられていましたが、今の会計基準では『ファイナンス・リース取引』は売買処理、『オペレーティング・リース取引』は賃貸借処理と決まっています。青山さんが納得いかないオフバランスは賃貸借処理ですね。ただ、その場合は取引のうち解約不能となる未経過リース料の注記が求められていますよ」
 「なるほど。貸借対照表上はオフバランスになっていても、注記で負債相当額がわかるわけですね」
 「これで解決・・・と言いたいところですが、リース会計で知っておかないといけないことはまだありますよ」
 「すでに結構ややこしいですが、まだありますか」と、青山は閉じかけたノートを再び開いた。
 「『ファイナンス・リース取引』は売買処理と言いましたが、忘れてならないのが『中小企業の会計に関する指針』です」と木下が言うと、青山が「まさか、賃貸借処理もOKなんて言いませんよね?」と返した。
 「そのまさか、が大正解です。中小企業の場合、『所有権移転外ファイナンス・リース取引』は、賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができるとされています。もちろんこの処理をする場合は、さきほどと同様に未経過リース料の注記が求められています」
 「むむ。与信先の多くが中小企業なので、それは覚えておきます。やはり難しいですねぇ、リース会計は」
 「しっかり注記表を作成していれば、それを確認したいところですが、経理部門が小さな中小零細企業だと、作り損ねているケースも想定されます。リースを多く活用しているとみられる会社なら、賃貸借取引も想定して原価明細や販管費明細に多額のリース料の計上がないかアンテナを張っておくべきでしょうね」
 青山はコーヒーを飲み終えていたが、話し続けていた木下のミルクティーはかなり残っていた。「このまま食べていきますか?」と、独身同士のふたりは揃ってナポリタンを注文した。「ここにもリースがありましたよ」と、木下が青山の後ろを指差した。青山が振り返ると、壁に小さなクリスマス・リースが控えめに掛かっており、BGMではビング・クロスビーがクリスマス・ソングを唄いはじめた。男ふたりのフィナンシャル・クリスマスであった。

リース会計の基礎

 リース取引において適用される会計処理は「リース取引に関する会計基準の適用指針」に定められており、リース契約によって処理が分けられています。会計上においてリース契約は「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」の2種類に分類され、「ファイナンス・リース取引」では売買処理、「オペレーティング・リース取引」では賃貸借処理の適用が要請されています。なお、以下の要件を満たす取引を「ファイナンス・リース取引」といい、それ以外の取引を「オペレーティング・リース取引」といいます。
◆ファイナンス・リース取引を満たす要件
①リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引(ノンキャンセラブル)。
②借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウト)。

中小企業におけるリース会計

 上記の「ファイナンス・リース取引」は、所有権の移転の有無により、さらに「所有権移転ファイナンス・リース取引」と「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分類されます。現行(※)の「リース取引に関する会計基準の適用指針」においては、いずれのファイナンス・リース取引においても売買処理を適用することが要請されていますが、木下が話したように中小企業においては「所有権移転外ファイナンス・リース取引」について、簡便法として賃貸借処理の適用が認められています。これは「中小企業の会計に関する指針」によって定められており、この場合は未経過リース料の注記が求められています。一方で、中小企業の与信においては注記漏れや、注記表まで入手出来ないケースも考えられますので、損益計算書におけるリース料の計上額からも負担感やリースに対する依存の程度を掴んでおきたいところです。
※…2011年3月25日最終改正

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