データを使いこなす!数字指向のマーケティング ~アドビ 丸井達郎氏~
2019.08.05
「マーケティングの成果を証明できない」「何を検証すべきかわからない」といった悩みは多くのマーケターが通ってきた道ではないでしょうか。そのような悩みを現場にはいり解決してきたアドビ システムズ 株式会社 カスタマーサクセス本部 リードストラテジックコンサルタント 丸井達郎氏にお話を伺いました。
(所属企業・役職はインタビュー当時のものです)
MAが国内で導入し始めた4~5年前は、各社のマーケターはツールの導入・運用が目的となってしまい、施策を実施するのに精一杯という印象でした。しかし、この1~2年で大きな変化を感じています。具体的にはツールの導入はあくまでも手段であり、そのツールを活用していかに成果を生み出すかに意識が向いており、その実現のためにセールスとマーケティングの組織改革に取り組む企業が多いように感じています。これは企業規模に関係なく、スタートアップからグローバル展開する大企業も同様です。MAはマーケティングからセールスまでの一連のプロセスをオートメーション化してスループット(売上)を最大化させるためのツールです。成功させるためにはCRM/SFAに正しい情報を入力する、インサイドセールス組織の構築など組織体制や意識改革などといった大規模な取り組みを行う必要があります。実際に取り組む企業が増えているということは、マーケティング活動が重要であり、評価される時代になってきたと実感しています。
-では、今の時代求められるマーケター像とはどのような人材でしょうか。
「自信をもって提供したリードをセールスがフォローしない」「まったく商談にならないリードだったと言われたしまった」ことはマーケターあるあるかと思います。マーケターは質の低いリードをパスすると評価が下がることを理解し、セールスとの連携や仕組み作りに注力するべきです。しかし、マーケターだけが奮闘すればよいわけではありません。セールスはマーケティング部門からパスされるリードをフォローする、フォローした結果をフィードバックすることが重要です。それまで、顧客の発掘からクロージングまで一人で行ってきた人にとっては、大きな行動の変化かもしれませんが、セールスの意識改革も必要です。人手不足、働き方改革などの流れもあり、限られた人員で成果を出すことが求められる時代ですが、両部門が連携することで実現できるものと思います。
両部門をつなぐ共通言語がMAのスコアリングであり、リードの品質を担保します。工場における検品、品質管理のようなものです。しかし、このスコアリングも伝え方ひとつで営業部門の対応姿勢も変わってきます。
-具体的に、どのような伝え方でしょうか?
例えば、
「高いスコアのリードですのでフォローしてください」ではなく、「既にフォローしていると思いますが、この10件のリードのなかで見落としがないか確認してもらえますか」と伝え方を変えるだけでセールスの受け止め方が変わってくるものです。
マーケターに求められるスキルとしては、前提として数字で説明できることは必要ですが、加えてバランス感覚やコミュニケーションスキル、プロジェクトマネジメントなど求められる範囲が広がっています。業務を進めるうえでは、営業、システム、企画など様々な部門を巻き込んでいくことが成功する大きな要因であると思います。BtoB企業のマーケターにとっては、社内における一次顧客は営業部門ですし、そこからの信頼を得られなければ、成果をあげることはできません。仕事はヒトとヒトによるところも大きく、常に後工程のことを考え、謙虚に仕事を進めることが大切です。
トヨタ自動車のカンバン方式のような日本の製造業が誇る緻密な生産管理、高度なプロセスマネジメントの技術がITの世界でも応用され、あらゆるシステムにナレッジが組み込まれています。モノづくりの世界でも緻密なプロセスマネジメントを通じて、生産性を向上させる為にオートメーションの技術は導入されます。MAは米国でマーケティング・セールスの分野でこれらの技術を応用して営業活動の生産性を向上させるシステムとして活用され浸透してきました。
ここ数年でMA導入企業は増えていますが、メール配信、ランディングページ・フォーム作成、シナリオ設計など施策を実施するためのMAの機能を使いこなせるようになっても、その効果や収益貢献を経営陣に説明できないケースを目の当たりにし、多くの相談もいただきました。また、収益貢献を証明するためのレポート作成に工数がかかり、戦術を考えることに時間をさけていないという声も幾度となく聞きました。
一方でMAには顧客プロセス管理やデータマネジメントなど戦術設計する機能も多く実装されています。マーケティング活動によってどのような成果を得たいのかというビジョンから戦術設計をしっかり行い、MAの機能を活用すれば、マーケティング活動の貢献を示せることを多くの人に理解してもらいたいと思いました。
また、弊社専務執行役員の福田との会話のなかで出た世界的なベストセラー『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か エリヤフ・ゴールドラット (著)』からもヒントをもらいました。内容としては工場の生産工程におけるボトルネックを解消して、スループットを最大化していくというものです。この考え方は、そのままMAで実践するプロセスに当てはめることができると気づいたことと、日本人は緻密なマネジメントができる国民性であり、MAを使いこなす器用さと合わさって、誰が読んでも理解できるマーケティングの世界のなかでの工場設計図の指南書のようなものが書けたらよいと思い、執筆にいたりました。
支援先の窓口はマーケティング部門が大半となりますが、最初に営業部門を交えた1~2日のワークショップを開き、セールスとマーケティングの活動でどのような収益貢献をしたいかを議論します。これを達成すれば成功といえるという売上や商談数など収益に関係する数字を共通のゴールとして設定するところからスタートします。収益に関する共通のゴールに対して、必要な商談数、インサイドセールスのコール数、新規顧客獲得数など、プロセスごとに過去の実績や支援経験からコンバージョン率を算定して目標数値を設定します(イメージ図1)。
やはり、マーケティング部門とセールスとの連携ができている企業が成果を出していますね。日本のマーケティングチームはワークフローを作成したり、オートメーション化することは優れている一方で、成果の測定やチームとしての再現性はやや遅れていると感じます。高度な施策を実行して成果も出ているが、測定の仕方がわからないだけというケースも意外と多いです。まずは、施策毎の結果をアナログでもよいので数字を埋め、細い線でもプロセスをつなげて計測することが重要です。プロセスとつながりが見えると、どこを改善すればよいのかがわかります。
組織の役割で言うと、日本の営業部門は業務量が多いと感じます。米国の方がプロセスの分業化は進んでいます。大手企業では既存顧客が8割程度で、そこに新規のリードがはいってきてもフォローしきれないということもあります。このような悲劇を避けるためにもマーケティングとセールスの連携は必須です。部分最適ではなく全体最適を目指し、組織変革を行うプロジェクトが増えてきているのがこの1年半ぐらいのトレンドと感じています。
マーケティング組織内においても最適化が必要です。まだまだ組織が横串となっておらず、部分最適の域を脱していないと感じます。リードジェネレーション担当、ナーチャリング担当、セールスへのパス担当などそれぞれのプロセスを横串で見て、マーケティングの全体最適を図ることができるCMO(チーフ マーケティング オフィサー)のような存在も必要でしょう。近年ではさらにその上位に位置し、営業部門、マーケティング部門などレベニューに関わる部門を横串で統括するようなCRO(チーフ レベニュー オフィサー)という役割も登場してきています。
BtoB企業のマーケターはTDBのデータを使用しているケースが多いですよね。昨今、ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)が注目されており、企業データの重要性ははより高まっています。ABMを実践するためには、正しくアカウントを設定することが前提であり、そのためにはアカウント単位で名寄せされ、属性が付与された状態が理想です
(イメージ図3)。
マーケターは様々な施策を実施しますが、効果検証をしなければPDCAサイクルを回すことはできません。「顧客の購買プロセスを業態などの企業ジャンルごとに捉えたい」「施策の効果を企業規模の違いを把握したい」といったように属性ごとの傾向値を捉えることが重要であり、そのためには企業データが必須ですね。傾向を数値で把握することができると、施策の効果や今後の打ち手などについてファクトに基づいた議論が可能になります。また、属性で分析してみると意外とノーマークだった業界のコンバージョンが他よりも高いことがわかったという場合があります。
例えば、
「メインターゲットは製造業だが、あまり注力していなかった不動産業のコンバージョンが3倍近く高かった。マーケットサイズは製造業より小さいが、得られる効果は大きいので、不動産業に焦点を当てた施策を実施しよう」
といった意思決定をすることができます。このように新たなマーケットスペースを見つけ出すことができれば、マーケター冥利につきるのではないでしょうか。
まずはデータの整理整頓をし、自分たちが活用できる土台を作ることが必要です。そのうえで、みるべき指標を絞ることが重要です。整理整頓の方法がプロセスマネジメントを中心としたマーケティングの測定計画であると思います。
また、多くの数字を見すぎないことをお勧めします。多くの数字を見ていると、何が正解かわからなくなってしまいますし、データは正解を導き出してくれると期待してしまっている人も多いのではないでしょうか。正解を導き出してくれる側面もあるかもしれませんが、データは気づきを得るためのヒントです。データに踊らされるのではなく、うまく使いこなしましょう。
-丸井さんにとって”データ”とは?
大量のデータが取得できる時代であるからこそ、データを整理整頓し、"使えるデータ"として"活用できる状態"にすることが重要になってきています。データを活用することで顧客のインサイトを分析でき、定量的な指標で効果測定をすることができます。これらは意思決定のスピードアップをサポートし、ビジネスに大きなプラスの影響を与える極めて大切な資産だと思っています。一方でビジネスは人が行うことです。データだけに頼らず常にクリエイティブな感性を磨き、必要な時に必要なデータを活用するという気持ちも大切ではないかと思っています。
(聞き手:帝国データバンク 営業企画部 貞閑洋平)
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