業種別の決算書の特徴(中編) ~サービス業・製造業~
2019.11.21
経理課の木下と営業部の若手・石崎とのランチタイムの業種別決算書談義は、まだ続いている。石崎がアサリの殻を噛み、木下のコンビニ店員姿を想像して笑いのツボに入り、そんなことをしているうちに2人とも弁当は完食し、石崎はデザートのプリンへ、木下はティータイムに移行している。ティータイムといっても、さすがに今日はペットボトルのティーである。
「卸売、小売はわかりました。他には何がありますかね・・・」と、大きなプリンをつつきながら石崎が聞いた。
「それでは、卸・小売とは違って在庫をほとんど持たない業態の話をしましょうか」
「在庫を持たないと言えば、サービス業ですね!」
「そうです。日本の産業の構成比について、平成の30年間で最も台頭したのはサービス業らしいですね。一方、比率が大きく低下したのは卸売業だそうです。さて、一口にサービス業といっても、いろいろありますね。物品の賃貸業もあればクリーニングや冠婚葬祭、コンテンツ制作や遊園地などの娯楽業、放送業もあります。修理・整備業もそうですし、広告・情報サービス・調査といった専門サービスもあります。でも、とくに社数が多いのはソフトウェア関連ですね。IT化によってソフトウェア業のほか、ネット広告などに携わる広告産業もとくに増えた印象がありますね。ちなみに、社長の平均年齢が最も若いのもサービス業だそうです。逆に社長の平均年齢が高いのは不動産業や製造業だそうです」・・・今日の木下はいつもよりも饒舌である。
「なるほど、確かにいろんな業種がありますが、財務面の共通点はやはり在庫が少ないことなんですね?」
「はい。それがサービス業の最大の特徴です。基本的にモノの仕入れがないわけですから、商品在庫の棚卸資産は少なくなり、棚卸資産回転期間は低く算出される傾向にあります。平均をとると月商の約3割で、おおむね全業種平均の1/3程度で済んでしまいます」
「では、貸借対照表もスリムになるのでしょうか?」
「いや、それが固定資産は重いんですよ。同時に、設備投資のための資金需要で有利子負債も全業種平均と比較するとやや重く計上される傾向にあります。サービス業の平均は固定資産、有利子負債いずれも月商比でおおむね4.5カ月から5カ月ちょっとになります」
「製造設備などはいらないはずなのに、固定資産が重いのはなぜでしょう?」
「実は、サービス業には旅館やホテル業が含まれるんですよ。宿泊施設は設備投資額が大金になりますからね。さきほど触れた遊園地なんかも設備投資が大きいので、これらが平均値を押し上げているのです」
「なるほど、そうなってくるとサービス業はもう少し細かい分類で平均をみていく必要がありますね」
「そうですね。サービス業に限らず、大分類よりも細かな分類での平均を用いるなど、必要に応じて参考にするモノサシを選ぶことが大切です。さて、サービス業の損益面での特徴として、何か思い浮かびますか?」
「あまり原価計算をしないんじゃないでしょうか。そうなってくると粗利の平均も高くなりますか?」
「冴えていますね。その通り、サービス業で粗利の平均をとると全業種よりも高く算出される傾向にあります。一方で、旅館やホテル業など固定資産がとくに多い業態だと、減価償却費が多額に計上されます。よって、平均と比較するより個々の原価構造や販管費の明細を見た方が、ビジネスモデルの理解につながります」
「だいたいはそうです。ただ、中小企業だと固定資産回転期間が短いケースも珍しくないんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「またまた前職の話になりますが、調味料やオイルなどを入れる巨大なタンクを作っていた会社がありました。工場には良く手入れされて年季が入った旋盤が並んでいて、従業員は10名に満たない小規模ながら、まさに職人集団という会社でした。その会社はほとんど設備資金が不要で、無借金経営だったんですよ」
「そうか、設備が多くても減価償却も終わっていれば、簿外資産になるわけですね!」
「そういうことです。では損益面ではどうでしょう。製造業の場合は原価計算が当たり前になりますが、粗利の平均はどうなると思いますか?」
「原価の中身は材料だけでなく、労務費や外注費、固定資産の償却費も出てきますから、粗利は相対的に低めになると思いますが・・・」
「正解です。減価償却費が全業種の中で最も重いのが、製造業の特徴のひとつです。そうそう、固定資産と一口に言っても、独自に構築したプログラムやソフトウェアといった無形のものも含まれますからね」
「大企業になるほどそういう無形の資産も多くなりそうですね」
「そうなります。石崎さんの後輩の谷田さんは実家が製造業と言っていましたね?」
「ええ、かまぼこ屋さんです。会社の規模は大きくありませんが、老舗の製造業です」
「製造業にとっては原価計算が命といっても過言ではありません。歩留まり率はどうかとか、材料単価をいかにして落とすかとか。もちろん外注費や工賃といった人件費も含みますが、そうした原価が最終利益に大きく響きますから、緻密さが求められます」
「なるほど。谷田が数字に細かいのは、そういうことも影響しているんですかね。家でも家計簿をしっかり付けて、飲み会の一回当たりの支出額を見ながら回数をセーブしているようです」
「確かに、そういうコスト意識は、営業パーソンにとっても大切かもしれませんね。多分谷田さんは、昼食の後にそこまで大きなプリンを買ったりしないのでしょうね」
「しまった・・・。たしかにこの特大プリンは余計だったかもしれません・・・」
「お弁当は原価として必要性が認められますが、プリンまで原価に入れると石崎さんは低収益企業ということになりそうです。まあ、今日のプリン代は営業外費用ということにしておきましょう!」
「ありがとうございます!」と、条件反射的に出た石崎のお礼の意味が、よくわからない一幕であった。
全業種平均と比較したサービス業の特徴
・サービスの提供は原則無形で、棚卸資産が少額
・仕入原価が発生しても僅か、または原価計算を採用していないケースもあり、粗利の平均が高い傾向
全業種平均と比較した製造業の特徴
・製造設備などの機械や、工場などの不動産といった固定資産が多額
・減価償却費が全業種の中で最も重い