企業概要データの利活用で効果的なEBMを実践!~横浜銀行・浜銀総合研究所~
2020.04.27
横浜銀行ではリージョナル・リテールの名のもと、長年に亘ってビッグデータ活用の取り組みを続けています。銀行本体のみならず浜銀総合研究所が持つデータ分析の知見を活かし、ビッグデータの広域地銀連携であるナレッジラボも運営し、各行が持つノウハウの共有を通じてモデル開発や研究に取り組んでいます。
今回は法人EBM※の取り組みやその効果、今後の展開について、浜銀総合研究所上席主任研究員・影井智宏氏、横浜銀行営業戦略部法人取引推進企画グループ長・櫻木達矢氏、マーケティンググループ調査役・松下伴理氏、同グループ副調査役・永井笑子氏にお話を伺いました。
(記載情報はいずれも2019年10月末時点のものです)
※法人EBM(イベントベースドマーケティング、Event Based Marketing)とは、企業のライフステージを考え、企業情報からイベントや変化及び予兆を把握し、成約期待値が高い企業に対して、タイミングよくアプローチする手法のことです。金融機関では主に入出金情報をはじめとした顧客データを分析することで、金融イベントの発生を予測し、アプローチに利用している。
(松下氏)メニューは大別して6種類あります。「商流を管理するもの」「行動を管理するもの」「預貸金の変化を検知するもの」「財務の変化を検知するもの」「取引の変化を検知するもの」「様々な期日情報」です。このうち商流を管理するものは、2014年に特許を取得しています。具体的には「新規販売先からの入金」「新規仕入先への支払い」というもので、これは、お客さまの商流の変化から新たな事業展開を推測し、資金調達ニーズや販路拡大のビジネスマッチングニーズ等に機動的に対応するものです。
法人EBMのモデル数は全部で64種類(2019年10月時点)用意していますが、新規営業開拓用というよりも、既存融資先を対象としたものが大半です。法人営業担当者向けが多いですが、特に重要なものは役職者にも送るようにしています。
(櫻木氏)例えば、当行メイン先で融資残高が減ってきているにも関わらず、訪問数が減っているような場合、法人EBMシステムが担当者に通知しています。また、従来であれば例えば大口の預金への入出金情報は営業店内で紙にて回覧されていましたが、営業担当者の端末に通知されますので、これらをデジタル化したようなイメージでしょうか。「あの顧客には最近顔を出していないな」「(入出金情報を見て)新しい入金先だな、新規取引が上手くいったのかな。今後取引が拡大するのか計画を聞いてみよう」といった具合に勘が冴える担当者であればすぐさまアプローチするのでしょうが、気付けていない担当者は法人EBMがサポートすることをねらっています。
(影井氏)ナレッジラボは地銀10行(北海道銀行、群馬銀行、武蔵野銀行、横浜銀行、北越銀行、北陸銀行、京都銀行、四国銀行、大分銀行、西日本シティ銀行)で、ビッグデータ基盤を共同開発し、モデル開発も行っています。事務局は浜銀総合研究所が担い、各行のビッグデータ人材の育成機能も兼ね備えています。
各行が共同で取り組むことで匿名化された様々な規模や業種のデータが集まり、企業特性や地域特性の理解が促進されています。例えば、横浜銀行は比較的規模の大きな企業情報を多く保有していますし、大分銀行では関東圏ではあまり見られない造船業に関する企業情報も保有しています。単独の銀行だけでは得ること出来ない知見が多く得られると考えています。もちろん法人EBMもこのナレッジラボの対象テーマです。
-法人EBMに取り組む上で気を付けていることはありますか?
(永井氏)イノベーションは決して一足飛びには実現できない、という点です。新しいシステムを導入すると、営業現場に浸透するにはどうしても相応の時間が掛かるものです。そのため、出来るだけ早く利用が進むための地道な工夫が必要だと考えています。
(松下氏)法人EBM情報の月間の配信数は4万数千件ですが、闇雲に配信数を増やさないようにしています。メニューによって月次・日次・随時で配信するものがありますが、配信し過ぎて営業担当者の負荷になっていないか、重要な法人EBMが数に埋もれてしまわないか、といった観点で注意をしています。
(影井氏)法人EBMはビッグデータの解析結果の一つの在り方で良いと考えています。また研究開発者は「数理モデル上では・・・統計的には、、、」といいたくなるものですが、このアプローチでは上手くいきません。またモデル上、凝ったものを作ることはできますが、そうしたものは営業現場では「わかりづらいものはいらない」となってしまいます。重要なことは使い手と作り手が共創することだと考えています。
(櫻木氏)優秀な営業担当者でも記念日系のイベントは意外と見落としがちであることがわかっています。この点からも法人EBMはすべての営業担当者にとって有用だと考えています。法人EBMは気付きを提供する機能ですが、この気付きが特に役に立つ担当者として、次の2種類が挙げられます。
一つは経験不足の担当者、もう一つは時間をかければ気付けるが、その時間が作れない担当者です。例えば前者は、訪問時に決算書を受け取っても、経験不足のため決算書内容の変化をその場で気付くことが出来ず、ヒアリングも十分に行えないまま、ただ帰ってしまいます。これに対して例えばEBM情報「設備投資増加」を配信することによって気付きを与え、経営者へのヒアリングに繋げていきます。
後者は、入出金情報を細かく見ていけば自ら、気付くことができますが、大量のデータの中から例えば新しい入金先に気付くのは至難の業であり、多くの時間を要します。こうした担当者に対してもEBM情報を配信することによって、分析のためのリソースを削減できます。こうした気付きの提供によって、担当者の顧客理解をフォローし、社長からも「良くわかってくれているな」と思われることが効果であると考えています。
-経験値の少ない行員向けへのトレーニングになりますね
(櫻木氏)ワーニングを見て、「次ここを確認すればいい」ということを知識として習得し、それを積み重ねることでトレーニングになりますね。その効果が出ていくことを期待しています。
(影井氏)銀行の立場で言えば、学びや育成も含め、気づきがシームレスで業務に組み込まれるようにすることが重要です。位置情報等のテクノロジーを使うかもしれないですが、訪問前に当該企業情報を把握して、その情報を参考に社長と会話する仕組みを確立することが大事です。タブレット端末でもスマートフォンを使っても、行ってから聞くのではなく、行く前に質問事項をまとめておくことが求められると思います。
(櫻木氏)訪問してから何でも社長に聞くのではなく、「私は御社の口座の動きや給与振込みの有無、決算書も全部見て、御社のことをとても大事に思っています。当行と御社の関係だからこそご提案できる融資があります。」という流れになれば、お互いに向き合って深い取引が出来ると思います。EBMがそのきっかけになればいいですね。
(影井氏)一方でナレッジラボの立場で言えば、EBMがビッグデータ分析の結果を表現するものであればいいと思っています。また、流す情報の中身やメッセージは重要です。現場が求めるものを流すには何をどんな形で流せばいいかを考える必要があります。凝ったものはいくらでもできますが、わかりづらいものは使われません。
地図上に取引先の企業情報を旗のように表示することも考えられますね。そのあたりの使い方やテクノロジーを含めて、ナレッジラボと銀行の本部・現場・お客さまとの共創になるのでしょうね。
ただ、その際に旗を立てるのに向いている情報と、自席でCRMシステムを通じて見るための情報は、明確に分ける必要があると思っています。チャネルミックスの概念ですね。今は旗を立てるというテクノロジーの話ばかりになっていますが、①デスクトップPCで見る情報、②タブレット端末で見る情報、といったように優先順位を付けてチャネルミックスで整理する必要が出てくるでしょう。優先度を付けないとわかりづらいですよね。このあたりの整理が今後の取り組みの一つになると思っています。
(影井氏)横浜銀行でいえば神奈川県内のデータはほぼ網羅しているので、県内の新しい情報は付加的な情報になります。さらに、付加情報として使う場合でも、横浜銀行の顧客番号(=CIF)と紐づいていることが大前提です。そうでなければ、ほとんどの銀行は経済センサスの補完でしか使えないと思います。
CIFと紐づけることのできる情報の例として、TDB企業コードがあります。CIFとTDB企業コードとを名寄せすることによって、未取引先の情報を補完した「推奨訪問先リスト」を作成できると考えられます。
また、自行が顧客基盤としていないエリアにおいて、未取引先を自行顧客から紹介していただく際に自行顧客との関係性を活用することが考えられます。その際に、例えば本社が違う都道府県にあっても経理機能がある事業所がエリア内にあれば、取引推定が出来る可能性がありますので、自行顧客とTDB企業コードの紐付けの効果は大きいものではないでしょうか。
横浜銀行の場合、C2※は県内都内で限られたエリアでしかないので、自行情報の相手先が限定的になっています。売掛買掛先のTDB企業コードはわかる場合でも、当該企業がエリア外の場合、C2や評点が行内にないので情報が取れません。そのため、現状では行内の「商流価値」が算出できない状況ですが、もしも全データを扱えるとすれば、エリア外のC2によって取引先企業の推定を行うことが出来るため、「商流価値」を評価できる指標が作れると思うので活用してみたいと思います。
※COSMOS2:帝国データバンクの企業概要データベースのこと。
(松下氏)個人のお客さまの背景が詳しく分かりそうですね。例えば、勤務先等の情報は住宅ローン提案や審査の時に必要ですので、常に最新の情報が得られるという点でも活用できると思います。
(松下氏)データは関係性の長さ、つまりその人の顔みたいなものだと思います。どれだけの期間取引していただいているかということで、どれくらい当行を大事に思ってくれていたかがわかると思います。たとえ規模として小さな顧客だとしてもその人にとって取引の中の大部分が当行を介したものだったということが把握できたり、逆に大企業にとって全取引のうち当行を介した取引はわずかなものだったり、ということも把握できます。単に金持ちか否かであれば家を見ればわかりますが、データを見ると、この人がどれだけ長く当行を大事に付き合ってくれていたかがわかります。そこはデータから得られる特有の特徴であり、かつ長い期間データを蓄積している銀行特有のものでもあります。
ビジネスパーソン向けアドバイスとしては、データを使って何か事を成そうと思っている人と、新しい技術を入れてスーパーパワーで何か出来ると思っている人が、比較的近いように見えますが、恐らく近くないと思います。現場の知見をもった方々こそデータを活用すべきで、活用まで含めたスキルとしてデータリテラシーを高めるべきだと思っています。
(影井氏)データは資源だと思います。例えば、「データは21世紀の石油」という言葉を耳にしますが、原油はガソリンや軽油等に生成して変えることではじめて価値が生まれます。動力資源は有形であり、モノを動かすのに商用化されたことから使い方はそこまで難しくありません。技術としては原油がそこにあるだけでは何の価値も生まず、ガソリンを精製して車に入れることで価値が生まれます。情報も同じで、そこにあるだけでは価値を生みません。ただ、原油と情報で決定的に違う部分は、原油は精製の精度や質、濃度などが重要であるのに対して、データはビジネスが一期一会でそれに応じた形に仕上げることが重要であると思います。
-どう磨くか、どう生成するかということですか
(影井氏)その生成が一期一会であるということです。ガソリンは濃度や質の話という一軸だけで評価出来ますが、データは生成の軸がビジネスによって違うので、仕上げないとビジネスでは着地できません。それから使えるものにしたときに何にどの機会に使うかという2段階で考える必要があります。
-一期一会の生成をするためにビジネスパーソンがすべきことは?
(影井氏)一番大事なことは情報を使ってビジネスを成し遂げることではなく、成し遂げたことの再現性です。「なぜそれが出来たのか」という要因まで掘り下げ、再現性があるかどうかまで探ることが肝要です。ビッグデータの活用は、再現性まで担保するのであればサイエンスと呼べると考えますし、そうあるべきものだと思っています。
(聞き手:株式会社帝国データバンク 営業企画部 北野 信高・三本木 亮太)
Data Designersとは・・・
データを読み解き、価値を高めることを「データをデザインする」と意味付け、その分野で先進的な取り組みをして活躍する方を紹介するインタビューシリーズ
関連書籍:「すべては仮説とタイミング 営業成果に差が出る法人EBMのススメ」
本書は、顧客のライフイベントや変化をきっかけに自社の商品・サービスをタイミング良く提案し、自社の収益向上につなげるイベント・ベースド・マーケティングについて、企業情報を用いたアプローチを紹介しています。
法人EBM先進行として横浜銀行様のインタビューも掲載しています。
法人営業で使えるノウハウをふんだんに盛り込んでいますので、営業の方はもとより、営業部門と協働するマーケティング部門の方もぜひご覧ください。
■帝国データバンクホームページ
http://www.tdb.co.jp/info/topics/k200404.html
■近代セールス社ホームページ
http://www.kindai-sales.co.jp/books/detail?item_no=32004
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