変わる価値観の中で「幸福」をいかに捉えるか ~景気のミカタ~
2020.06.17
今回の景気のミカタは、経済成長と人びとの幸福度をいかに捉えるか、近年活発化している幸福度研究について、焦点をあてています。
国内景気は8カ月連続で悪化も、自宅内消費やテレワークなどは好材料に
国内景気は、政府が新型コロナウイルスに対する感染拡大防止に向けて発した緊急事態宣言が解除される5月25日まで、経済活動が大幅に制約される状態が続きました。製造業で生産調整や一時帰休などが実施されたほか、企業の人手不足感は急激に減退しています。
他方で、企業の景況感は緊急事態宣言の解除を前にした22日頃から徐々に上向き始めていました(図表1)。外出自粛による自宅内消費の高まりやテレワーク、ビデオ通話の拡大のほか、衛生商品やハンドメイド、DIY商品などは好材料となっています。
国際的に進む「幸福度」をはかる取り組み
私は、過去に手を付けつつもなかなか進まなかった「幸福度」について、改めて調べてみることにしました。
2020年3月に国際連合が発表した「World Happiness Report 2020(世界幸福度報告)」によると、日本の幸福度は、調査対象153カ国中62位でした(図表2)。1位フィンランド、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位ノルウェーなど、北欧を中心にヨーロッパ諸国が上位を独占しています。このランキングは、ギャラップ社の世界世論調査における「キャントリルの梯子の質問」と呼ばれる質問への回答の平均値が基になっています。あり得る最高の状況を10、最悪の状況を0として、現在の自分の生活が10段階の何段目にあるかを答えてもらう質問です。いわゆる現在の生活に対する主観的な評価を表しているといえます。
また、OECD(経済協力開発機構)が発表した「How’s Life? 2018」によると、日本の幸福度に対する強みと弱みがよりはっきりと表れています。強みとしては、「雇用と仕事の質」分野の就業率、「健康状態」分野の平均余命、「安全」分野の殺人件数(の少なさ)、「知識と技能」分野の科学分野の学生の技能などです。逆に弱みとしては、「住宅」分野の過密率、「主観的幸福」分野の負の感情・バランス、「仕事と生活のバランス」分野の性別による仕事時間の差などです。OECDによる幸福度指標は具体的なデータを基に評価している指標となっています。
成長と幸福度をいかに捉えるか
それでは日本の幸福度研究はどうでしょうか。日本においては、内閣府を中心とした「幸福度」研究により、国民の満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)が公表されています。国連とOECDの折衷案と言える考え方が基本となっており、国民の幸福度の向上につながるさまざまな要素を取り入れた成長を目指すのが狙いです。
幸福についての研究は、1970年代に所得の上昇が必ずしも幸福感に結びついていないという「幸福のパラドックス」が唱えられて以後、非常に活発化しています。そして、物質的条件だけでなく精神的条件についての研究が進んだ結果、人びとが幸福かどうかを判断する要因は個人間でかなり共通していることが分かってきました。
国際的規模で進められている幸福の意識調査において、経済発展の初期段階では所得の上昇が幸福度の向上に大きく寄与するものの、経済が成長するにつれその効果は薄れ、やがてほとんど影響しなくなる、という事実の発見が提起されました。World Values Surveyによる「世界価値観調査」では、幸福度に対して経済的繁栄の影響が薄れる一方で、選択の自由や社会の寛容度が大きく作用する、ということが明らかになっています。豊かな国では、富を得ることで生き方を自由に選択でき、男女平等やマイノリティーなどへの寛容性が人びとの幸福度を高めますが、一方で貧しい国では地域の絆や信仰心・愛国心が幸福感を補っていると考えられています。
日本では経済成長が幸福度に与える効果は薄れているかもしれません。しかし現在の名目GDPは1997年から4%程度しか増加しておらず、20年以上もほぼ同水準です。所得水準が高くても、経済が成長せず社会の閉塞感が幸福度を引き下げている可能性も考えられます。本当に日本において経済成長が幸福度に影響を与えなくなっているのか、検証する余地があるのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの発生前と後とでは、人びとの価値観が大きく変化すると予測されています。こうしたなか、幸福度指標を開発することは、人びとが幸福を感じる要因が何であるかを解明することともいえます。困難ではありますが、成功すれば社会に与える貢献はことさら大きなものとなるでしょう。
執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士
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