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  • 10種類の「所得」 ~個人所得税の基礎知識~

2021.01.13

[企業審査人シリーズvol.230]


新型コロナウイルス感染対策でテレワークによる分散出社を継続しているウッドワーク社で、この日、審査課の青山と経理課の木下の出社日が重なった。朝のうちに木下の出社を確認した青山が、お昼の時間になるなり、書類を手にして木下のところにやってきた。
「お久しぶりです!木下さん。今日は仕事の質問ではなくて、個人の確定申告のことなんですが、ちょっと見てもらっていいですか?去年、ふるさと納税をしたので、寄付金控除の書き方を確認したいんです」
「はやいですね!でも・・・そうか。確かに、還付申告なら1月から受け付けますからね。どれどれ・・・」
かわいい生徒の答案を見るように木下が書類に目を通す後ろから、青山が疑問に思っていたことに聞き、ひととおりのやりとりが終わって、木下が口を開いた。
「よし、これで大丈夫です!新潟の方に納税されたんですね」
「はい。返礼品のお米が魅力的で…。チェックありがとうございます!」
「私も、昔旅行で訪れた地域にふるさと納税をして、みかんやはちみつ、包丁セットをもらったことがあります。改めて地方の名産を知ることができますし、個人的にお気に入りの制度です」
「良い機会だと思って個人の確定申告書を眺めてみましたが、いろんな所得があるんですね。個人営業の審査をするときに事業所得をチェックしますが、それ以外はあまり気にしていませんでした」
「せっかくなので、個人の所得についてざっとお話ししましょうか。知っておいて損はないでしょう。会計事務所に勤めていた頃、10種類の所得をさらりと説明できるように、税理士の所長によく指導されたものです」
「10種類もあるんですか!てっきり、給料と事業、その他ぐらいに大別されていると思っていました」
「よく目にするのは給与所得と事業所得です。また、大家さんは不動産所得の申告が必要です」
「確かに、個人事業の審査をしたとき、たまに青色決算書が2つあって、片方が不動産でした」
「ちなみに会計事務所に勤めていた頃、農業所得の決算書も目にしたことがありますが、これは事業所得に含まれます。また、事業用の固定資産や家庭用の資産を売却した場合は、譲渡所得の申告が必要です」
「あれ?・・・じゃあ僕がスマホアプリで売った家電も申告しなきゃいけないんですか?」
「ご安心ください。生活用品を処分して得た収入は、所得税の課されない譲渡所得とされています。そのため申告は不要ですが、30万円以上の貴金属等を売却したときは課税対象となります。そもそも、中古家電を売って、利益なんてでていませんよね?」
「たしか買ったときの十分の一くらいの値段で、生活費に消えていきました・・・。農業所得ですけど、林業もそのような事業所得に含まれるんでしょうか?うちは建築関連なので、ちょっと気になりまして」
「山林所得という独立した所得がありますよ。これは伐採した木や立木のまま売却して得た所得ですが、5年を超えて所有していた山林に適用されます。5年以内であれば、事業所得や雑所得となるようです。山林所得は私も実際に申告したことはなくて、古い資料で1例のみ発見したことがあるぐらいで、珍しいものですね」
「雑所得というのは、いわゆるその他、みたいなイメージですか?」
「そうですね。公的年金や、副業で原稿料をもらったときなどが雑所得に該当します。懸賞金や謝礼金といったものは一時所得に分類されるので、注意が必要です」
すでに昼休みの時間帯に入っているが、ふたりは昼食に移ることなく話を続けている。
「そういえば青山さんでも、まじめに会社を勤め上げれば関係する所得がありますよ」
「勤め上げれば・・・ということは、退職金ですね!でも、ずっと先のことですから・・・。あれ?退職金にも税金がかかるんですね。何だか世知辛い気がします」
「そんなに心配しないでください。苦労して得た退職所得については、それなりの所得控除が用意されています。例えば、35年勤めれば、1,850万円の所得控除で、残額のさらに半分が退職所得の金額になります」
「そうなんですね、ちょっと安心しました!」
「あと残っているのは、利子所得と配当所得ですね」
「利子所得というのは、定期預金の利子みたいなやつですね。配当も、株を買っていればもらえるものだと思いますが、僕には縁がなさそうです」
「いずれも通常は源泉徴収されているので、確定申告が不要な制度を選択している人が大半でしょうね。このような利子所得は、源泉分離課税に該当します」
「給料をもらうときに源泉されるイメージですか。ちなみにその”分離”とは何でしょう?」
「文字通り、他の所得とは合算せずに分けて、税額を計算するものです。ちなみに、不動産を売却したときの所得は申告が必要な分離課税になります。また、株式を売買して得た所得も分離課税となりますが、株の売買についてはNISA口座などを利用している場合、申告が不要なケースもあります。所得の総合と分離の話は複雑になってきますので、またの機会にしましょう」
「確かにちょっとこんがらがってきましたが、なんとなく全体像はつかめました」
「少々、脇道に逸れましたが、10種類の所得は覚えましたか?利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得ですよ!」
「さすが、暗記しているのですね。僕のようなサラリーマンは確定申告をしないので、勉強になりました!」
「ちなみに、ふるさと納税には申告不要なワンストップ納税という制度もあります。ただ、給与所得のみの人でも、マイホームを買った後に行う一年目の住宅取得控除や医療費控除は申告が必要です。青山さんも今後、確定申告をすることがあるかもしれませんよ」
「木下さんは税金の話になるといつもより饒舌ですね。昼食の時間も忘れちゃっていますよね」
青山が感心しながら、それとなく昼食に促したが、木下はどうやらスイッチが入ってしまったようだ。
「青山さん、せっかくなので今度一緒に税務署に行きましょう!独特の雰囲気があって面白いですよ」
「いやいや、コロナ対策で郵送にするつもりです。それより、そろそろお昼にしましょうよ」
2人はいつものリフレッシュコーナーに向かったが、スイッチの入った木下の熱弁は続き、昼食を食べ終わる頃には、青山の確定申告に木下が同行して一緒に税務署に行く約束が取り交わされたのであった。

個人事業の審査時に知っておきたい注意点

個人事業主を審査するケースにおいては、法人よりも決算書や申告書を開示してもらうハードルは高いと思われますが、例えば事業所得以外に不動産収入がある場合は作成される決算書が分かれる点に注意が必要です。また、青色申告か白色申告かの違いによって作成される計算書類が異なります。個人の確定申告時期は2月16日から3月15日と、少々先ですが、個人事業における基礎知識として、企業審査人シリーズvol.89「個人事業の決算書 ~青?白?黄色??~」もあわせてご覧ください。

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