クリエイティビティでDXを支援する ~株式会社博報堂 入江 謙太氏~(後編)
2021.02.25
テクニカルディレクターなどの専門人材によるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進プロジェクトチーム「hakuhodo DXD」を発足当初から牽引する株式会社博報堂の入江謙太氏へのインタビューです。
インタビューは前後編の2部構成としており、後編となる今回は、DX事業を推進するうえでの課題やマーケティングにおけるデータの読み解き方についてご覧ください。
▼前編はこちら
クリエイティビティでDXを支援する ~株式会社博報堂 入江 謙太氏~(前編)
DX事業を推進するうえで、パーパス(目的)とかビジョン(展望)などを掲げることももちろん大事ですが、それを作っただけではビジネスは動きません。現場で議論して盛り上がっても、役員に答申すると進まないということも、どの企業でもあると思います。
特に既存事業のDXの方が難しいと感じています。だったら新規事業をはじめからデジタルサービスとして立ち上げる方が簡単な場合も多いです。
既存事業は、既存のシステムや組織、意思決定の仕組みなどをかなり引きずってしまうため、それを変えることは非常に体力がいります。しかし、本来は、既存顧客やブランド認知もあるため、新規事業の立ち上げコストよりも、既存事業のDXのコストの方が安いはずなのです。なので、既存事業をデータを中心にいかに再活性化するかを、経営者の方々にわかりやすく伝えることが、私たちの一つの役割なのではと思います。
また、それを続けていくための運用体制を社内外のリソースを組み合わせて整えることは非常に重要です。
あとは、それぞれのタッチポイントごとのデザインも大事です。いわゆるグラフィックデザインのような「動かない」「強い」デザインも重要なのですが、もっと、カスタマージャーニー全体の様々なタッチポイントに転用されていく柔軟なデザインを体系的につくることができる人材が必要だと感じています。
~人間中心のデザインと、企業の世界観を反映したデザイン~
「人間中心デザイン」というキーワードがあります。よくUX界隈では言われる言葉ですが、人間中心のデザインということだけを考えて作っていると、どの企業が作っても結局同じものになってしまうのです。やはり、その企業の理念や世界観のようなものを色濃く反映したサービスを作っていかないといけない。シンプルで最低限なブランドやサービスしかない世界はつまらないと思います。特徴のある商品、サービスの生まれる社会だからこそ、豊かな暮らしや楽しい生活ができるということになるのではと考えています。
―マーケティングする際に重要視する項目や、具体的に必要な要素などあればお聞かせください
我々は、企業データももちろん見ますが、生活者意識に代表される生活者側のデータを見る場合が多いですね。また、企業やブランドがどういう事実を持っているのかというデータを見る場合もあります。例えば、ブランドヒストリーを確認する、中期経営計画のように公開されている定性情報をインプットする場合が多いですね。
一方で、企業の定量情報を読み込んで、どのように活用していけばいいのかをもっと考えなければならないと思っています。
例えば、都道府県全てに工場を抱えているような企業が、戦略的に見てもっと効率的にアセットを削減、効率化することに主眼を置くのではなく、各都道府県の固有ブランドを作れるのは我々しかいないというという風に読み替えていくことが大切だと思います。同じデータでも読み解き方によって、その解釈は変わってくるということです。
~「異常値」は、どの企業にもあるはず~
例えば、あるファーストフードチェーンがあって、店舗が全国に約1,000店舗、契約している農家が約3,000軒あるとします。これは同業他社と比較すると明らかに多い「異常値」ということになるでしょう。その異常値があるからこそできる企業の打ち手は何かを考えることが非常に重要です。そして何よりも大事なのは、その異常値に気がつくことができるかどうかです。また、工場の数に対して、営業所数や従業員数などの「異常値」をみつけられると、同業種と比較したときに、何が勝っているのか、営業力なのか、工場生産力なのか、研究開発力なのか、といったことが見えてくると思うのです。こういったことが理解できてくると、企業独自の戦略や勝ち筋がとても考えやすくなります。「異常値」は、どの企業にもあるはずです。
データを使う側からすると、そういうった企業に関する情報データの「異常値」を教えてくれるデータベースがあったら嬉しいですね。どこに特徴的な変化があったのか、工場数が増加した、研究開発費が減少している、といったような異常値を時系列に数値化し可視化できると、その企業でどのような意思決定があったのか、戦略を変更してきたのかなどが透けて見えてとても面白いと思っています。
―このようなデータを活用して今後実現していきたいことがあればお聞かせください
~ブランドエッセンスを学習する仕組みを作ってみたい~
様々なデータを活用して、ブランドの機械学習のようなことができないかと考えています。私たちは、企業のブランドエッセンスを学習していく仕組みを研究し始めています。もともと企業が保持している各種データに関係性のようなものや、社長の性格などを組み入れると、「企業人格」というものが何かデータで表現できたりするかもしれないというようには思っています。その企業は「優しさ」30、「厳しさ」20、「自由さ」50といったブランドエッセンスでできているね、といったことが分かるようになると様々な活用の場面があるのではないかと想像しています。
―ビジネスパーソンに向けてデータを読み解く観点で大切にしていることをお聞かせください
誰もが言うことかもしれませんが、結局きちんとデータと会話できるかどうかということですよね。例えば、70%っていう数値が高いのか、普通なのか、低いのか。ケースによっては、70%でも低いと言える場合もあれば、高いと言える場合もありますよね。
やはり、データと会話しながら、このデータはどんな意味があるのか、何を伝えようとしているのか、何も言っていないのか、などを理解していくことが重要です。データをデータとして見るのではなく、何かを語りかけてくる人格としてとらえられるかどうかだと思います。
データと会話するようにデータに向き合わないと、結局データというものに振り回されてしまうこともあります。また少し違う目線で考えると、データというと一般的には数字的なものだと意識してしまいがちですが、画像や音声といったものもデータと捉えることができますよね。少なくともAIは画像や音声もデータとして処理しています。ですので、データという括りは、いわゆる数字的なもの以外にも、ものすごく広がってきていると思うのです。
データというものをもっと自由な概念として捉えたらいいのではないかなと思います。すべてがデータであるととらえると、できることは格段に広がるはずです。
―あなたにとって「データ」とは何ですか
データは、ずばり「価値提供の母」です。
生活者からデータを頂いたら、きちんと価値を返す責任があると思うのです。企業が誰かからデータを頂戴しているだけという関係性は、今後あまり成り立っていかないと思っています。
価値を返さない限りは、データそのものをどんどん取得できなくなりますし、個人情報保護などの観点からも取得しづらくなってきているという状況もあります。そのデータをもらうからには何らかの価値を返さなければならない。あるいは、価値を提供するためにデータを一時的に頂戴する、預かるといった関係性を考えていくと、データは「価値提供の母」と言えるのだと思います。
「Data is New Oil」という考え方がありますが、このような表現がされるということは、結局自分たちの金儲けのことしか考えてない。金儲けはある種必要な側面もあるのですが、価値提供の対価としての金儲けととらえない限り、その企業は世の中から嫌われていくことになるのではないかと思います。
したがって、闇雲にデータを取得すればいいわけではなく、先ほど申し上げた「クリティカルデータ」を明確にすることが重要ですし、その結果としてデータを「価値提供の母」ととらえることができるのではと思います。
クリエイティビティでDXを支援する ~株式会社博報堂 入江 謙太氏~(前編)
(聞き手:帝国データバンク 営業企画部 黒澤学)
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