純資産の部 後編|財務会計のイロハのイ
2021.11.30
今回は貸借対照表の最後の説明として、「債務超過」と資本金の関係や、今後紹介する「損益計算書」と関係が深い科目についてポイントを説明します。
新入社員「倒産してしまいそうなイメージですが、中小企業の決算書では、よく見かけると聞きます。単純な疑問ですが、そのような状態で会社を続けることは可能なのでしょうか?」
先輩社員「債務超過に陥ったからといって、直ちに借金を全額返済するようなことはありませんし、いきなり銀行取引が停止することもありません。少々踏み込んだ話になりますが、中小企業の場合は、社長が株主であることも多く、一時的に社長個人のお金を会社に入れることで、急場を凌ぐ判断も発生します」
新入社員「増資をするイメージでしょうか?」
先輩社員「資本金の増加には登記が必要ですので、社長が会社にお金を貸すような形態をとるパターンが多いです。また、この場合は役員借入金という科目などで、金融機関からの借り入れと分けるのが一般的です」
新入社員「なるほど。そして、業績が回復して来たら、役員借入を返済して債務超過をクリアにしていく、ということですね」
先輩社員「そのようなシナリオが理想的ですね。債務超過の決算書を分析するときは、いつから、どのような原因で債務超過となったのかや、今後の会社の方針をつかむなどして、より慎重な目線で判断していく必要があります」
新入社員「初心者のうちは難しそうですが、債務超過かどうかや、自己資本比率だけで判断せずに、資産・負債の中身にも目を向けていくように心がけたいです」
先輩社員「今後、損益計算書についても話していきますが、一帳票の一か所だけで決めつけないよう、俯瞰して企業の分析をする姿勢を忘れないようにしましょう。さて、前回は純資産の部のうち『株主資本』をフォーカスしましたが、残りを簡単に説明していきましょう。一つは『新株予約権』です」
新入社員「その勘定科目も聞いたことがありません・・・。ですが、科目名から増資につながるものでしょうか?」
先輩社員「なかなか良いカンしてますね。新株予約権を持っている人は、それを発行した会社に対し、権利行使によって約束した価格で株式を買うことができます。また、自社の役員や従業員に発行されるものはストック・オプションと呼ばれ、一定条件で権利行使できるインセンティブとしても活用されています。ですが、新株予約権は、権利が行使されないこともある『仮』の状態でもありますので、『株主資本』からは分けられています」
新入社員「ストック・オプションという言葉は、経済新聞で目にした記憶があります。発行する会社としては、純資産の部に計上されるんですね」
先輩社員「最後に『評価・換算差額等』というグループがあります。詳しい説明は省きますが、例えば『その他有価証券』を時価で評価したとき、値上がりしているけど、まだ売って利益を確定させたわけではないので、一時的に、差額をこのグループに計上します」
新入社員「『その他有価証券』は、『投資その他の資産』の説明の時に出てきた科目ですね。確か、有価証券は保有目的に応じて、計上区分が変わるんでしたよね」
先輩社員「そうです。時価評価の方法といった会計処理も、実は変わってきます。ひとまず、今日は純資産の部が、大きく『株主資本』『新株予約権』『評価・換算差額等』というように分かれている、とイメージを固めてもらえばOKです」
新入社員「わかりました。今日まで貸借対照表の説明をしてもらいましたが、基礎の部分だけでも自分が思っていた以上にたくさんの論点があって驚きました」
先輩社員「そうなんですよ。決算書の世界って、とっても奥深いでしょ?もちろん、複雑で難しいところもありますが、大枠を掴めば、理解するスピードも速くなっていきますし、それが面白いところだと思います」
ポイントの整理
また、今後の会社の方針をつかむなどして、より慎重な目線で判断していく必要がある
②純資産の部は、大きく「株主資本」「新株予約権」「評価・換算差額等」からなる
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■企業審査人シリーズvol.158:新株予約権の話 ~毒か?薬か?!~
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