値上げラッシュで消費者のインフレ予想が急上昇!?~景気のミカタ~
2022.06.17
今回の景気のミカタは、仕入れコストの上昇分に対する販売価格への転嫁がなかなか進まない一方で、ここにきて家計のインフレ予想が急速に上昇していることに焦点をあてています。
仕入コストの上昇分を販売価格に反映する「価格転嫁率」は44.3%
帝国データバンクの調査[1]によると、自社の主な商品・サービスにおいて、企業の73.3%が仕入れコストの上昇分を販売価格やサービス料金に『多少なりとも価格転嫁できている』と回答していました(図表1)。
ただし、仕入れコストの上昇分に対して「すべて価格転嫁できている」企業は6.4%と1割未満にとどまります。コストの上昇分に対する販売価格への転嫁割合を示す「価格転嫁率」は44.3%と半分以下の水準で、これは仕入れコストが100円上昇した場合に44.3円しか販売価格に反映できていないことを示しています。
原材料費など仕入れコストの上昇はとどまる気配がみられない状況です。そのため、コスト上昇の全額または大部分を転嫁できている企業においても、今後さらなる価格転嫁が必要となる事態も想定され、各社は厳しい舵取りを迫られそうです。
急速に高まる家計のインフレ予想
期待(予想)インフレ率は、それぞれ立場によって大きく異なってきますが、ここにきて(1)専門家や(2)家計、(3)企業、(4)マーケットといった各経済主体の見方がそろって上昇傾向を示してきました。
とりわけ家計のインフレ予想は、2021年前半から高まり始め2022年に入ってからさらに急上昇しています(図表2)。家計において予想するインフレ率が他の経済主体より高くなっていることには、一段の注意が必要となってくるでしょう。
各経済主体のインフレ予想には次のような特徴があります。(1)専門家は金融政策の変更に対して敏感に反応する、(2)家計は身近な買い物の経験に影響する、(3)企業は一般物価よりも自社の属する業界の価格動向を意識する、(4)マーケットはインフレ・リスクプレミアムや市場の流動性プレミアムの影響を受けやすい、といった傾向です。
しかし、現状ではさまざまな経済主体による期待(予想)インフレ率について、誰の見方を重視すれば良いか、合意は得られていません。そのため、インフレ予想の基調を捉えるには、各経済主体のインフレ予想を幅広く観察し、チェックすることが一般的です。
その際、いくつかの考え方が存在します。第一に、家計のインフレ予想を重視すべきという立場です。家計が直面する実質金利の変化を通じて、家計の消費に直接的に影響を及ぼすことを重視します。
第二に、企業の予想を重視すべきという立場です。金融政策分析の枠組みでは、企業のインフレ予想に基づいて、その価格設定行動が定まることが背景にあります。
第三に、各主体のインフレ予想はお互いに連動しているという立場です。家計や企業がインフレ予想を形成する際には、専門家のインフレ予想が強い影響を与える情報源になっていること、また、家計のインフレ予想が変化すると賃金交渉を通じて企業の価格設定に影響を及ぼすため、実際の消費者物価にも影響を及ぼすためです。
最後は、各主体の異質性ではなく、共通性に着目すべきという立場です。各主体のインフレ予想には、共通の変動成分が存在することが示唆されていることからきています。
インフレによる社会全体への影響にはプラス・マイナス両面がありますが、適度なインフレは短期的に経済を刺激する効果もあり、過度な価格競争を避けることにもつながります。多くの人びとによる将来のインフレ予想は現実の物価動向にも影響を与えるため、期待(予想)インフレ率の動向は今後ますます重要度を増していくでしょう。
[1] 帝国データバンク「企業の価格転嫁の動向アンケート(2022年6月)」(2022年6月8日発表)
(情報統括部 情報統括課 主席研究員 窪田剛士)
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