繰越欠損金と過年度修正|財務会計のイロハのイ
2022.12.06
決算書を見るうえで注意したい税務との違いなどのポイントを紹介しています。「繰越欠損金」と「繰越利益剰余金」の違いや、修正された決算書を入手できない場合の確認点について触れていますので、着実に知識を増やしていきましょう。
新入社員「税引後当期純利益ですね。たまに、利益が出ているのに税金が計上されておらず、不思議に思うことがあります」
先輩社員「会計上の収益・費用と、税務上の益金・損金とのズレによる影響もありますが、税務上は繰越欠損金の存在によって決算表示上の税引前利益が計上されていても、法人税等がわずかというケースもありますよ」
新入社員「繰越欠損金というのは何でしょうか?繰越利益剰余金とは違うのでしょうか?」
先輩社員「まず、繰越利益剰余金は会計上の純資産科目で、利益の積み重ねの結果が反映されたものといえるでしょう。税務上の繰越欠損金とは、赤字となった結果生じるマイナス部分であって、今の税法ではしっかり青色申告をしていれば10年間の繰越が認められています」
新入社員「なるほど。その欠損金額が大きく、翌期に計上された黒字と相殺してもなお残るのであれば、法人税等がかからなくなるといったことですね」
先輩社員「そのイメージで良いでしょう。もちろん決算書上の純資産が債務超過から脱していないかといったところも合わせてチェックする必要がありますので、極力過去の経緯を把握して、どのような原因で赤字が発生したのか、今後挽回する手立てはあるのか、といった分析に繋げていきたいですね」
新入社員「ほかに、税務絡みで気を付けるべきポイントはあるのでしょうか?」
先輩社員「決算書を続けてみたとき、例えば株主資本等変動計算書の期首と前期末の連続性が取れていない時があるかと思います。そのようなケースは、税務調査等を起点として決算書の過年度修正が入っている可能性もあるでしょう」
新入社員「税務調査というのは、税務署が厳しく決算書をチェックして、脱税を指摘するやつですよね?」
先輩社員「税務調査と聞くとマルサの強制調査が思い浮かぶかもしれませんが、こちらはレアで、ほとんどは日程調整などを行って対応する任意調査がほとんどですよ。でも、そのなかで間違いがあって納税額が変わることがあれば、決算書を正しく直して修正申告を行わなければなりません」
新入社員「確かに、過去修正した決算書を入手できるとは限りませんから、そこで連続性が途切れることがあるんですね」
先輩社員「上場企業であれば、修正の影響が大きければ訂正有価証券報告書でその内容を確認出来ますが、中小企業の審査のシーンでは修正された決算書を入手できないことも多いでしょう。なかなか、調査が入って修正したことを大っぴらに言うこともないでしょうしね」
新入社員「なるほど。そのようなケースは決算書を見るときはどこに注意すればよいんでしょうか?」
先輩社員「私は、純資産が増えたのか減ったのかをまずみます。逆粉飾だったら、修正を経て増えているかもしれませんね。そして、各資産・負債科目の前期比から、おおむね影響が生じた科目に目星をつけますが、初心者のうちは少し難しいでしょう。深追いしすぎても目算が正しいとも限りませんので、最終的には現時点での財務や資金繰りの良し悪しにフォーカスすべきでしょうね」
新入社員「こういったことも、帳票間のつながりなどを知っておかないと判断が難しいかもしれませんね」
先輩社員「これまで学んだことを総動員して、様々な決算書を見ていくのが良いでしょう。その場で答え合わせができるようなものではありませんが、翌期以降のその会社の進捗を追う事で、自身の判断がおおむね正解だったのかがわかってきて、その蓄積が経験値になっていくものだと思いますよ」
ポイントの整理
・決算書が過去期と連続性が取れていない場合、税務調査等を起点とする、過年度修正が行われているケースがある。
◆関連コラム
過年度修正が行われる具体例や、その主な理由について触れています。
■企業審査人シリーズvol.170:税務調査の話 ~ダンボールの恐怖妄想~
任意調査について、体験談を基にどのように行われるのかを説明しています。
どのようなものなのか気になる方は是非ご確認ください。
・繰越欠損金については、国税局のタックスアンサーの参照がおすすめです。