データの力でインフラ整備の意義を示す ~パシフィックコンサルタンツ~
2023.01.11
~パシフィックコンサルタンツ株式会社 北海道支社 社会イノベーション事業部 交通政策室~
パシフィックコンサルタンツ株式会社は、社会インフラサービス企業の先駆者として、グループビジョン「技術の力を、未来の希望に」を掲げ、持続可能な世界へ導くことをミッションに100年企業へと邁進しています。今回は、北海道支社社会イノベーション事業部で、ビッグデータを活用してインフラ整備の意義を伝えることがミッションの一つである交通政策室のエグゼクティブコンサルタント・西川 洋一氏(写真右)、課長補佐・瀬尾 亜希子氏(写真左)、技術主任・河口 麻祐氏(写真中央)にお話を伺いしました。
※所属部署・役職はインタビュー当時のものです
(瀬尾氏・河口氏)道路整備がどれだけ北海道に恩恵をもたらしたのかをデータを使って示すことが我々の仕事の一つです。分析の目的は事業前後の大きく二つに分けられ、事業開始前は道路整備の「必要性」を説明するためのシミュレーション、事業完了後は道路がどれだけ「効果」をもたらしているかを証明するためです。
使用しているデータは、公表されているものが中心で、総務省の国勢調査をはじめとした政府統計データや公表資料を用いて取り組んでいます。外部データを購入することもありますが、すでに分析結果をまとめた資料に示したい情報が特定できた段階で、それに見合うデータのみを購入しています。それらデータを活用する例としては、農水産物の生産量に関する分析があります。国内トップクラスの食料基地である北海道からは農水産物が全国に運ばれています。運ぶためには道路が必要であることを示すために、農林水産省の作物統計を用いて全国における北海道の農産物のシェアや推移などをみて、北海道のポテンシャルを表す分析を行っています。
(西川氏)我々は事業の中で道路利用者にヒアリング調査を行いますが、公表データは市町村単位での集計値しかないため、ヒアリング対象の選定は、経験や過年度の実績の積み重ねに依存せざるを得ない状況でもあり、データ・エビデンスを示しながら対象選定が難しい側面もありました。
-御社を取り巻く環境とデータ活用ニーズの変化は、どのように感じていますか?
(西川氏・瀬尾氏・河口氏)道路整備の必要性やその効果について、経年のノウハウの積み重ねが活きてくることは当然ながら、それ以外に新しい見せ方が求められています。ただ、新しい見せ方と言ってもデータをただ別の表現で見せるだけでは不十分で、道路整備効果の評価方法を新しい観点で打ち出していくことが同時に求められています。その期待に応えるためには、予め現在取得し得る新しいデータが何かを把握しておくことが大事であると思います。先ほど申し上げたとおり、公表資料をもとにした分析がメインですが、最近では車や人の動きに関するビッグデータを活用することが多くなってきています。
また、当社はプロポーザル方式で業務を受託しており、顧客満足度を向上していくためには、他社との差別化も必要です。北海道のことは、道内企業が詳しくて当然です。一方で当社は道外企業がゆえに、道外の取り組みを持ち込んでくることが強みであり、そのような新しい提案を価値・認識してもらっていると思いますが、新しい提案をするにおいては経年のノウハウに加えてデータ活用も交えることが必須になりつつあると感じます。
そうした変化に対応し、差別化や先駆的提案ができるよう、当社では全国にいる社内メンバーが集まるビッグデータに関するワーキンググループでノウハウの共有や発掘を定期的に行っています。社外の方にも講師として来ていただき、外部の知見を吸収することも行っており、帝国データバンクさんにも参加いただきました。
-データの見せ方にも変化はありますか?
(瀬尾氏・河口氏)これまではグラフで見せることが中心でしたが、技術の進化により、表現の仕方が広がっていますし、読み手側も求める表現が必ずしもグラフ表現ではないことが多くなってきている気がします。それに合わせ、当社でも直観的に理解しやすいようデータビジュアライゼーションし、それを動画で見せるなど、根本的に見せ方・伝え方が変わってきています。同じデータでも見せ方や切り口を変えるだけで得られる示唆が違いますので、世の中の動きが早いのでトレンドに乗り遅れないように、全国の交流を通じてノウハウを蓄積しています。
-データ活用するうえでどのような苦労がありますか?
(瀬尾氏・河口氏)データはあくまでも数字であり、見せ方を考えるのが我々の仕事です。データは見せ方ひとつで変わってくるので、いかにストーリーとあった見せ方をするか、いかに相手に納得してもらうかが苦労する点です。ただし、そもそも、その前段階の情報収集においても世の中にデータが溢れてきているので、そこから有効なデータを探し、集めなければいけない点も苦労しますし、データ量も増えているため、ビッグデータの加工・集計に時間がとられる点も課題と感じています。
(西川氏)新しい価値を生み出すためには、政府統計以外の世の中に出回っていないデータをいかに収集していくかが重要であると考えています。しかし、そのような情報を保有する企業側のガードが固くなってきている二律背反のなかでいかに有効なデータを入手できるかがポイントです。また、目的外のデータを見出すことも重要な視点です。
例えば、帝国データバンクさんのデータも元々信用調査をした結果、集まったものだと思いますが、我々がインフラ整備の検証に使うということを目的として集められたものでは当然なく、そうした活用のされ方もあまり想定はしていなかったのではないでしょうか。本来データが集められた目的とは違う活用方法ができるデータを見つけ出し、またその活用の道筋を考えていくことは難しく、苦労しますが、ビッグデータの活用を考えた際には重要な動きだと思っています。しかし、当初の目的以外の活用をしようとすると活用可能範囲が限定されていて、社会的意義をお伝えしたとしても、データを提供いただけないことも多く、新しいデータの存在を発見するも、それを活用することが難しく、活用方法の検討にまで至らないことが悩ましいところです。
(西川氏・瀬尾氏・河口氏)データ分析のプロセスは、仮説と検証の繰り返しです。そのため、対象範囲も含めて様々な切り口で分析を行います。買い切り型の場合、データを購入して分析した後に、「範囲を広げて分析したい」「属性情報が不足していた」という事態になった場合、データを購入し直さなければならず、実はデータ分析には不向きな調達方法です。特に、発注者が提示資料を見て気づいたり、思い立ったりして別の視点で取り組めないかと要望を受けることが多々あり、その都度「やり直し」が発生します。そのため、「データ活用の質を向上させる」、「最終顧客の要望に柔軟に応え満足度を向上させる」、この2点の実現を本来的には求めたいところです。
その点、帝国データバンクさんから紹介していただいたHELFECLOUDは、公表データではなく帝国データバンクさんが独自に収集した情報をもとにしたサブスクリプション型クラウドサービスのため、世の中に出回っていないデータである点や、データビジュアライゼーションがすでにされていて、ユーザーインターフェースが備わっている点からトライアンドエラーを繰り返しながら分析しやすい点に魅力を感じました。第一印象で「使ってみたい」思いましたし、使う価値があると思います。
HELFECLOUDでは様々な見せ方、分析の仕方が表現されています。我々は通常、データで示せる可視化の表現を考えてからデータの加工をするのですが、データ分析・可視化しても良い結果が得られず、何度もやり直すことは多々あります。その都度、発生するデータの加工・集計作業は当たり前と思って取り組んでいるところはあります。ただ、HELFECLOUDでは事前に可視化された状態からスタートするので、どういう可視化をしたらよいか、そのための加工はどうするかを都度考えずに、結果をすぐに示して顧客の意見を捉えるこができるところも大きいと感じました。結果として、調査・分析にかかる総コストの削減やデータ活用の質向上につながると感じます。
HELFECLOUDのサービス紹介とイメージ動画(2分)はこちら
(西川氏・瀬尾氏・河口氏))業種やエリアごとの企業数などは統計データで確認することができますが、企業間取引は公表されていません。例えば、企業間の取引数が増減したかを示すのにHELFECLOUDを使えばボタンひとつで把握できるようになったことの効果は大きいです。数値で捉えるほかにも、地図上で取引先をマッピングした表現も確認できる点も良いです。また、可視化された状態からスタートすると、生データを見ることからスタートすることと違い、どういうことが示せそうかという想像が膨らみやすいので、今まで思いつかなかった分析方法やデータの見方の発想にもつながり、HELFECLOUDを使うことで新しい価値が生まれたと思っています。
商流把握は、これまでの方法だと一つ一つヒアリングで行いますが、事前に仮説を設定しているために、ヒアリングバイアスがかかってしまっている可能性はゼロではないと思います。その点、道路整備効果を測定する目的で集められていないデータを活用するからこそ、その結果を客観的に見ることができる側面もあると思っており、新しくできることが増えたことと従来の方法の課題を解決することにもつながっていると思います。
HELFECLOUDでは取引数の増減が道路整備によってもたらされたのか、その要因まではわかりませんが、そこはヒアリングをして詳しく見ていくことで補完できます。重要なのは、情報把握のためのヒアリングではなく、情報深堀のためのヒアリングと、取り組み方が変わったことです。さらに、HELFECLOUDは俯瞰するマクロ情報から、個社単位のミクロ情報まで一貫して把握することができるので、従来は経験則に依存せざるを得なかったヒアリング対象の選定もデータに基づいて選定することができるようにもなりました。
-どのような分析に使っていますか?
(瀬尾氏・河口氏)やはり企業間のつながりです。例えば、北海道は本州との繋がりが薄いように見えがちです。しかし、取引の観点からみると、以前は道内取引が多かったが、今では道外企業との取引が増えている場合、そのつながりが道路整備による効果であることを分析で証明しています。
これまでは仮説を立てるためだけにデータを購入することはなく、公表されているデータや経験が頼りでした。その場合、集計・可視化しても良い結果が出ないこともあり、作業工数をかけても分析のきっかけを発見できないという問題があります。また、そもそも通常データを取得しただけでは、そのデータでどういう内容が示せそうかはわかりませんので、仮説のあたりをつけるだけでもデータ収集後の工数がかかり、スピーディに対応といかない場合もあります。
HELFECLOUD には経年データも収録されていますし、可視化された状態でデータを眺めることができるので、仮説の発想・発見に大きく寄与しています。特に、発想や発見は、分析と違ってデータを詳細に追っていくことで見えてくるというよりも、可視化されたデータをぼんやり眺めているときにふと思い立ったりすることがあるように思います。可視化前のデータではそういうことは起こらないので、可視化された状態からスタートできるのはそういったメリットもあるのではないでしょうか。
自発的な側面で活用シーンを話しましたが、当然顧客の発想起点のものもあります。例えば、農業や港湾と合わせてインフラ整備を考えるといった総合的な視点で検討してほしいという要望を寄せられたことがあります。その際にどうすべきか悩みましたが、ふとHELFECLOUDであれば様々な観点でデータを見ながら総合的な観点で仮説立てができるのではないか、また今後、仮説の検討を進めるためにどういう情報を追加で自分たちがリサーチすべきかなどを考える取っ掛かりにも活用したことがあります。
-今後、データ活用で取り組んでいきたいことを教えてください
(西川氏)帝国データバンクさんが保有するデータを使うことでより分析の可能性が広がると思うことが3つあります。1つ目は商流です。人口減少、物流の効率化が進むなか、自動車を例にとってみると交通量は減っていますが、積載が多い大型車両で多くのモノを運んでいるのが実態です。このように交通量だけをみると取引がどれだけ活発になっているのかがわかりにくいため、取引の量・流れがわかる商流に関するOD表のようなものがあると良いと思います。
2点目は、経済波及効果です。現在は産業連関表を使っていますが、取引をベースにモデルを作ることができれば、実態に即した経済波及効果を出せるのではないかと思います。当社では企業に緯度経度情報をもたせ、GISデータと紐づけて、空間と企業情報を一体化した分析ができると思います。
3点目は予測です。シナリオをたてて、インフラと結び付けた将来予測ができれば理想です。
(河口氏・瀬尾氏)人流データは、スマートフォンの普及により入手しやすくなっていますが、商流のデータは集められません。帝国データバンクさんが収集しているデータは非常に貴重だと思います。
※OD表とは
OD表 (Origin-Destination Table / Matrix)
経済の統計調査の1つで、人・物・通信の流動を調べるため、どこからどこへどれ位の量が流れているのかを見やすい表にしたもの
-TDBカレッジは「ビジネスパーソンのデータリテラシーを高める」がコンセプトですが、データを活用するうえで大切と思うことは何ですか?
(西川氏)当社は、時代とともに複雑に変化する社会の課題に対して、インフラエンジニアリングを核としたコンサルティングサービスを提供しており、我々は技術士という資格を保有しています。この資格の目的は「科学技術の向上と国民経済の発展」です。この目的に寄与することが我々の責務であり、データ活用においても、そこにつきると思います。データは「科学技術の向上と国民経済の発展」を果たすための重要なパートナーです。
(河口氏)データはただの数字です。世の中の事象を表現したり、わかりやすく人に見せたりするためには、数字だけでは絶対に伝わりません。伝えるためには、上手く見せることが絶対に必要です。そのため、新しいことにアンテナを張り、表現する方法をみつけることがビジネスにおいては大切だと思います。
(瀬尾氏)データはファクトとして絶対なものであり、本来、読み手によって変わりうるものではないはずですが、実際は見せ方次第で説得力が高くなったり低くなったりもしてしまいます。いかに貴重なデータがあっても伝える技術力次第でファクトの力が変わってしまうのが実態です。そのためデータの価値を棄損してしまわないように、最後読み手へ伝える我々がしっかりと見せ方含め、データの価値をそのままに届けられるよう意識して取り組むことが大切だと思います。
(聞き手:株式会社帝国データバンク 営業企画部 貞閑 洋平、企総部 六信 孝則)
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