「守り」だけではない与信管理~異動前夜~
2013.10.11
パクリ屋の商業登記に気づくようになった青山が審査課に配属されたのは半年前。新卒で入社して以来、3年間営業部で東京の顧客開拓に携わった。最初の1年は営業事務、そして自分で顧客を持つようになって2年、目立つ成績ではないが世間話をしに立ち寄れる先も増えてきた矢先の異動だった。
「なぜベテラン揃いの審査に俺が?営業を抑える後ろ向きな仕事じゃないか・・・」
そう思っていた青山は、異動前に上司となる課長の中谷にランチに誘われたとき、素直に印象を伝えた。 中谷とは与信の相談で何度か話したことがあり、何となく相性のよさも感じていたので、率直に伝えたのだが、100回以上受けたことがある質問に答えるようなため息をついた後、目を光らせながら答えた。
「そうじゃない。審査は営業のブレーキじゃないわ。アクセルを踏むこともあるのよ。」
そう続ける中谷に、「私は審査の一面しか見てなかったということですね」と青山は目から鱗が半分落ちたような顔をした。審査課はフロアも違うし、事務的な会話をしたことがある人がふたりいるだけだが、上司となる中谷が目を輝かせて語る仕事だ。青山の頭から、異動の不安の雲がすーっと消えていった。
与信管理は「守り」だけではない
取引相手の実体を見誤って過大な信用を与え損失を被る、より具体的に言えば、焦付き(不良債権)を出すリスクを最小限に抑えることが、与信管理の最大の目的と言われます。
たかが100万円の焦付きでも、売上高経常利益率5%の会社がそれを特別損失として処理するならば、損失を挽回するのに2,000万円の売上を新たに立てなければならない計算になります。その役割は大変重要です。
ただ、中谷が言うように、こうしたことは与信管理の機能の半面にすぎません。彼女が用いた「目利き」という言葉を使えば、「会社の良し悪し(取引リスクの大小)」を目利き、「いい会社(取引リスクの少ない会社)」を見出し、営業を促していくことも与信管理のもう半面の機能です。
いつ倒産する会社かわからない会社には利幅を多く乗せて早く利益を回収する。倒産しそうにない会社には利幅を多少削ってでも食い入って、長い期間をかけてシェア拡大を図っていく。あくまで理論上ですが、倒産確率が30%のA社と10%のB社がある場合、両者に同一期間、同額の売上を立てるならば、A社にB社の3倍の利益を乗せてはじめて同額の期間利益を得られる計算になります。そうしたコントロールを与信管理は担っているわけです。
与信管理の現実から理想へ
多くの会社では、焦付の防止だけを機能としているか、それすら営業部門との力関係から控えめに機能する程度のケースが多いようです。歯がゆい思いをしながら審査業務に当たっている審査担当者も多いでしょう。しかしリスクゼロの取引などない不確実な時代において、リスクだけを最小化する守りの管理だけでは、売上がどんどん減少します。だからこそ、攻めを兼ね備えた与信管理が重要なのです。
2:商業登記の虚飾(商業登記の見方)
1:危ない新規取引(パクリ屋)
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