債権譲渡登記の正しい見方 ~「危ない」とは限らない~
2013.10.25
千葉に報告書を手渡された青山は、普通ではない分厚さを指で感じた。
「ありがとうございます。」と声をかけると千葉はいつものやさしい笑みを浮かべた。千葉は契約社員だが審査課歴も年齢も青山より上だ。青山はつられて笑みを浮かべながら、指で違和を感じた報告書の頁をめくった。
「債権譲渡登記がこんなに・・・」。青山はまだ見習いの扱いで、書類の取得や下調べを任されている。来年1月に本審査を始めるまでの間、審査に回す前の書類に目を通し、気になるところに付箋を貼るよう指示されている。これは大玉だと感じた青山は中谷を探したが、いない。水田さんに聞いてみるか。
「ああ、こんなにたくさん付いてるのは珍しいね。青山君が睨んだとおり、あんまり筋のいいもんじゃないな。譲受人のTY商事はこの会社の仕入先か。ここ1年ほど反復的に譲渡しとるし、信用状態があまりよくなさそうじゃ。ただ、ここまで反復しているのは、資金繰りの一環としてやっているんじゃないかな。」
そう言う水田に、
「債権譲渡登記が付いていたら気を付けろ、と前に教わったんですけど、違うんですか?」と青山はさらに怪訝な顔をした。
債権譲渡登記とは
債権の流動化による資金繰りの円滑化を意図した法制化でしたが、与信管理の観点では緊急時の保全に用いられることが多いため、債権譲渡登記が信用不安のシグナルとして見られる風潮がありました。このため施行当初は商業登記に直接登記されていたものが、現在は情報開示が制限されています。譲渡人の本店管轄法務局にて「現在事項証明書(債権譲渡登記事項概要ファイル)」と指定して申請する形になりますが、債権譲渡登記がない場合は記録されていない旨、登記がある場合は譲受人の名前くらいの情報しか入手できません(東京都中野区にある東京法務局民事行政部債権登録課が窓口となっています)。
債権譲渡登記は中身の見極めが重要
したがって「債権譲渡登記があるから危ない会社だ」といった見方では実体を見誤る可能性があります。ノンバンクなどの金融業者が銀行等を譲受人として反復的に登記を行うケースがもっとも多く、この場合は数十件、数百件の登記がなされていることがあります。
またこのほかにも資金繰りの簡素化のために特定の債権を反復的に譲渡しているケースがあり、こうした多数の登記が同一関係者により反復的になされている場合は、資金繰りの一環と見なすべきことが多いと言えます。利用されている登記の全体数からすれば、信用を疑うべき登記の割合は多くないわけです。こうしたことを理解せずに「あの会社は債権譲渡登記が付いているから危ない」といったことを言うと、風評被害を招くことがありますので、審査担当者は注意すべきです。
もちろん、逆に登記を無視することも禁物であり、中身を見て性質を見極めることが重要です。