安定性指標の注意点 ~良い場合の罠~
2013.12.06
青山は独力で審査を始めるために、課長の中谷のレクチャーを継続的に受けている。一人前の審査人になる修業である。週に2回、1時間ずつと決めているが、講師・中谷が突如として降臨することもあるため、青山の頭は日々満腹状態だ。
今日のレクチャーのテーマは決算書。決算書をよく見たことがなかった青山に、中谷は銀行業務検定の財務3級の受験を奨め、6月に見事合格した。
「呑み込みは早いわね」あまり人を褒めない中谷がこのときは褒めたものだ。
「この決算書、どう思う?」中谷が青山に見せた決算書は、調査会社の報告書に添付された分析付きだ。
「流動比率も200%近いし、自己資本比率は35%と安全圏ですね。利益率は高くはないですが、黒字だし、悪い会社には見えません」分析表を見てそう答えた青山に、中谷は言った。
「目の付けどころはいいわ。でも、この会社は支払遅延の噂が出てるのよ」
「流動比率や自己資本比率、期間損益から目を付けるのは悪くないわ。基本はそれでいいの。ただ、目に見えて数字が悪い会社は、誰でも悪いと気づくものよ。素人は、一見悪そうじゃない会社が潰れて引っかかってしまうの。この会社のどこが悪そうか、わかる?」
青山は少し間をおいて、「売上債権回転期間と棚卸資産回転期間が延びてますね」と言ってみた。中谷の眼鏡がいつもより意地悪に見える。
「これってどういうことなんでしょう?」青山はそう言葉を継いで、降参のポーズをした。
自己資本比率は「一次判断」の指標
自己資本比率が高いことは、過去に利益を出してきたこと、そして借入が多くない・もしくはバランスがよいことを示しています。
ただ、審査では手元流動性、すなわち現預金を合わせて見ることが重要です。老舗の企業では、自己資本比率は高いものの、稼いだ利益で不動産などに投資し、手元で自由に使える現預金や流動性資金が少ない場合があります。計画的に資金繰りを行う上で、現預金は最低でも月商分はほしいところで、足りない場合は自己資本比率が高くても資金繰りに余裕がないことになります。
流動比率も中身の見極めが重要
「最近、得意先からの回収条件が悪化した」といった理由で売上債権が膨らむことがあります。こうした場合は、キャッシュフロー分析において営業キャッシュフローがマイナスになることが多く、そういう状況が2期以上続いていると「危険」と見るのがセオリーです。反対側の流動負債で見るべきポイントは、借入金の長短の仕分けです。運転資金目的で借りた「一年以内返済予定」の借入金が長期に一括計上されている場合、流動比率が表面的に良くなります。零細企業の場合は決算書の計上方法に厳密性が求められないため、本来流動負債に含むべき借入金が長期借入金として固定負債に計上されていることがあり、注意が必要です。
期間損益については黒字が出ているに越したことはありませんが、赤字の場合はとくに零細企業については理由を深掘りすることが重要です。これについては次回触れましょう。