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  • 安定性指標の注意点 ~悪い場合の罠~

2013.12.13

[企業審査人シリーズvol.12]

自己資本比率や流動比率の「深読み」について中谷の話を聞いた青山は、(財務分析はあまりあてにならないってことか?)と、最初は少しがっかりした。しかし、すぐに審査の奥深さを垣間見たという思いが勝ってきて、再びやる気が出てきた。こういう切り替えの早さとベースとしての「前向き」は青山のいいところだ。
 「じゃあ、もう1社見てみる?」と、中谷がもうひとつ決算書を青山の前に出した。
自己資本比率5%、流動比率96%、期間損益は3期連続で100万円前後の赤字。
 「わかったぞ、今度は見た目が悪い会社の決算書を見せて、実はいい会社だった、というパターンだ」
 そう思いながら顔を上げると、中谷がいたずらを仕掛けた子供のような顔をしている。
 「これはひどい会社ですね!倒産寸前ですか?」子供のような顔の期待を裏切れず、青山はそう言った。
 シナリオ通りの答えをもらって満足げな顔をした中谷を見て、青山も安堵したが、次の瞬間、
 「でも、そんな単純な話じゃないとホントは思ってるでしょ?」と言う中谷に、青山は思わず吹き出した。
 「もちろんですよ」
 「そうよね。裏読みができないような人には審査なんて務まらないから、一応合格ね」
さすがダテに審査をしてきたわけじゃない。さしずめ「裏読みの女王」か。
青山は妙な感心をしたが、中谷の出題の意図は読めても、肝心の出題の答えが読めない。
 「裏があるのはわかりましたが、裏の中身がわかりません!教えてください。」青山は女王に頭を下げた。

零細企業の決算書は深読みが肝心

 前回は、自己資本比率や流動比率が高い会社にも注意が必要だというお話でしたが、今回中谷が青山に示した題材は、これとは逆の財務状態です。こうした会社の多くは実際の経営状態も悪く、会社の規模が大きいほどその可能性は高いと言えます。会社が大きくなり、株主や銀行などステイクホルダーが増えるほど、会社は決算書を良い状態にしたいという動機が働くので、実態より良く見せる乖離はあっても、悪く見せることはないものです。しかし、零細企業の場合は必ずしもそうではありません。
 社長一族や知人が出資する零細企業では、決算書は税務申告のために作るものと考えている社長が少なくありません。その目的は「払う税金をいかに少なくするか」に絞られます。バブル崩壊やリーマンショックといった風雪を経た今、「あえて赤字にする」と言える余裕のある会社は減ってきてはいますが、少なくありません。こういう会社は評価の物差しに当てると定量的な評価がどうしても低くなり、調査報告書の評点はせいぜい40点台しか付きません。しかし実際には、何年経っても倒産せず生き延びるものなのです。

販管費と借入金の内訳が見分けるポイント

 そういう会社の実態を見極めるポイントは、販管費明細と借入金の内訳です。販管費明細(販売費及び一般管理費明細)で、役員報酬を見ます。役員報酬といっても零細企業では役員を社長の家族が占めるケースが多く、そこで2,000万円も3,000万円も計上されている場合、これを削れば赤字決算がたちまち黒字決算になります。
 借入金については、社長や一族からの借入金が多くないかを見ます。銀行借入が少なく一族からの借入が多い場合、これらの借入は資本性の資金と見なすことができます。DES(Debt Equity Swap=負債と資本の交換)のように、これらを資本金に組み入れる、あるいは役員が貸付債権を放棄することで、自己資本比率は簡単に上がります。金融機関の融資先査定においても、こうした借入金は資本と見なしてよいという考え方があります。
 身内からの借入の範囲で商売を続けられる会社は銀行に気を遣う必要もないので、赤字決算を続けても平気なわけです。もちろんこういう会社の帳簿が良くないのは事実であり、儲かっているとは言えないこともあるので、こうした会社への過大な与信は控えるべきです。
 しかし、こうした会社との取引を審査において門前払いしてしまうと、売れる先を過度に狭めてしまう可能性があります。
 こうした見極めは「危険な会社」の見極めと比べれば優先度が落ちますが、目に見えて優良な会社が多くない時代、「取引してよい先」をどん欲に探っていくという意味では、持っておきたい観点です。

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