個人資産の担保供与 ~不動産登記の謎~
2013.12.27
調査報告書に添付された不動産登記写を見ていた青山は、代表一族の所有不動産の多さに感心しながら、ふと疑問に思った。
「社長の親族名義の不動産で担保が付いていないものもあるけど、これっていざというときに会社の借金の担保に差し出してくれるのかな」
会社所有の不動産で担保に供与してないものがあるのなら、それは担保余力として見込めるだろう。しかし親族が所有する不動産はどうだろう。青山は、隣で水田が煎餅の袋を取ろうと机の引き出しを開けるタイミングを見計らって質問した。
「うん、それはもっともな疑問だ。そこはその不動産や親族の関係をよく見ないとわからんもんじゃ」
「やっぱりそうですよね」
青山は大学生でベンチャー研究会に所属している弟の顔を思い浮かべた。
「俺が不動産を持っても、あいつには絶対担保供与しないぞ」
個人資産の把握はますます困難に
また同族企業においては、配当や役員報酬を通じて会社ではなく社長個人が蓄財しているケースもあり、社長個人や親族、関係会社などの資金力は信用判断において重要なファクターです。
しかし、プライバシー意識の高まりや個人情報保護法の施行によって、個人資産に関する情報の取得や扱いは年々難しくなっています。調査会社においても、「情報を知り得ても報告書に書けない」という場合があります。まして新しい会社の場合は、調査会社といえども把握は容易ではありません。
こういう場合は、営業パーソンが持つ定性情報を活用することが重要になります。営業パーソンは商談や営業情報の収集活動において、その会社や社長に関する情報を豊富に持っています。会社の資産が薄く与信に不安がある場合、信用を補完する要素が社長個人や一族、あるいは関係会社にないかどうか、営業パーソンに聞いてみるとよいでしょう。その際のポイントについてはまた改めて触れます。
グループや一族の関係を見る重要性
不動産登記の話に戻ると、登記からは社長一族が持つ不動産の所有形態から、会社の状態を推測できます。自宅についてはもちろん、本社の不動産がまだ先代社長の名義であったり、最近になって社長に相続されていたり、あるいは後継者である専務に相続されたり、といった情報がわかります。近年は中小企業の事業承継が社会一般の経営課題として注目されていますが、不動産の所有権の動きは、役員や株主の動きとともに事業承継の進み具合を見る材料情報になります。