懐疑的視点の重要性~審査人の眼~
2014.01.10
金曜日の夜、青山は課長の中谷と水田とともに、会社近くの居酒屋にいた。中谷は秋庭も誘ったが、付き合いが悪く年間出席率が25%という秋庭は今晩もヒットしなかった。
中谷は酒にことさら強いわけではないが、飲み屋で飲む雰囲気が好きで、月に1度は審査課のメンバーを誘って飲みに行く。世間一般の中年管理職と何ら変わらない。しかも店はいつも小汚い居酒屋である。
酒がほどよくまわった夜九時前、酔いに任せて青山が水田に聞いた。
「水田さん、審査人として大成するのに一番重要な資質は何でしょうか?」
水田は赤くなった顔にうれしそうな表情を浮かべ、「そうじゃな。物事の真相を探求することかな」と答えた。
しかし、無言の中谷の表情に「面白くないわよ」という言葉を読み取った水田は、間を空けずに続けた。
「要は疑り深いということじゃ」
「疑り深さ、ですかあ」青山は酔いながらも、少し不安そうな顔をした。
「疑り深い、というと誤解がありそうですね、水田さん。まあ物事を二面的に見るというか、耳障りのいい情報だけを信用しないメンタリティというのかな」と中谷が補足した。
なるほど、とうなずいた青山に向かって、中谷が面白そうな顔をして言った。
「青山は水田さんのこと、いい人だと思ってるでしょ。もう騙されてるわよ。資質、ないかもね」
「えっ?」と青山の目線を向けられた水田は、困った顔をした後、中谷をキッと睨んだ。
情報には二面性がある
調査員を経験した社員が多い調査会社には、社内の業務においても「耳障りのよい言葉を額面通りに受け取らない」という人が多いように感じます。情報を額面通りにとらえていては商売にならない、というのが調査会社のメンタリティ、習性、あるいはプロ意識なのかもしれません。こうした懐疑的な着眼・着想は、企業の審査にあたる方々にも重要な資質と言えるのではないでしょうか。
情報には二面性がある
こうした情報の二面性は、資質だけでなく「立場」にも影響されます。営業パーソンは、取引先と長年懇意であるといった関係性に、自分の売上を拡大したいという動機も加わり、取引先に対して肯定的な解釈をしがちです。これは立場上、ある程度は仕方のないことであり、そうした営業パーソンの情報のバイアスを理解しながら、客観的な立場で判断を行うのが審査の仕事なのです。
調査の場面における見極め
また、創業社長の多くは起業のエネルギーに溢れた有能な営業パーソンですから、調査員に対しても自らのアイデアや事業の可能性を情熱的に、上手に語ります。調査員はそうした話を聞きながら、角度を変えて質問を重ねて実態を見極めていきます。
調査員は相手に「こいつには嘘はつけないな」と思ってもらってなんぼの商売ですから、相手の情熱にほだされて肩入れしてしまうようでは仕事になりません。営業パーソンの場合は自分のそろばんも弾いてこういう話に食いついてしまいがちですが、結果として騙されたとなっては、結局は本人にとっても利益になりません。そうしたことを、営業パーソンに教育していくことも審査の仕事と言えるかもしれません。
顧客から急に注文が増え、自分の営業努力が実ったと喜ぶ営業パーソンを前にして、「他社が手を引いているんじゃないか?」と言えるかどうか。審査人の凄みはそういうところにあります。営業パーソンに客観的な目で気づきを与える。さらには、お客さまに厳しい突っ込みができない営業パーソンに代わって、厳しいことを言う役を引き受ける。そういうことも審査人の重要な役割といえるかもしれません。