定性情報の重要性~営業パーソンの眼~
2014.01.17
向かいに座る秋庭の電話が長い。支店の営業パーソンと話をしているようだが、何か込み入った話のようだ。あまり人と長く話をしたがらない秋庭には珍しい。「はいはい、失礼しますう~」と自分から早々に切り上げてしまうのが秋庭のいつもの電話だが、今日は切り上げられない話なのか、まだ続いている。
40分ほど経って受話器を置いた秋庭はため息をつき、すぐ課長の中谷のところに行った。
「そう。それなら大丈夫そうね。同期の人脈が役に立ったわね。ありがとう」という中谷の声が聞こえた。
「どんな話だったんですか?」席に戻ってきた秋庭に、青山は聞いてみた。
「危うく、いい商談を反故にするところだったよ」と秋庭は上気した顔で答えた。
「それでどうだったんじゃ?」水田も口を挟む。
「今年になって地元の信金の合併に絡んだ店舗改装工事を一手に引き受けたらしくて、つなぎ資金はその信金から引き出せていることがわかったんです。最近の支払い振りにも問題ないし、去年代わった2代目も信用できる人だと聞けたので、申請額で通すことになりました」秋庭は水田の方を見ながら話した。
「なるほど」と言いながら、青山は(秋庭さんにも頼りになる同期がいるんだ・・・)と、いらぬ感心と安心をしていた。
重要な「審査と営業の連携」
しかし本来、「優良な取引先を開拓して適正な利益を上げる」という目的において、審査と営業は同じベクトルを向いているはずであり、両部門の連携が与信管理の質に大きく影響します。
今回のように、審査の場面で営業が持つネットワークや情報が役立つことは少なくありません。とくに本社で一括審査を行うような組織では、地場の情報を持つ営業拠点から情報を引き出すことがより重要になります。しかし、審査担当者の誰もが経験しているように、営業サイドの情報の玉石混淆で、社長の景気のよい話を鵜呑みにしていたり、信憑性のない噂話だったり、といったことも少なくありません。営業パーソンは「売りたい」という思いで都合の良い情報を集めがちなので、有益な情報を引き出すためには工夫が必要です。
営業パーソンの情報を引き出すポイント
もうひとつは、できるだけ具体的に情報を引き出すことです。例えば「市内にマンションを持っているらしい」ではなく、「市内の○○と○○に2個所のマンションを持っている」、「銀行の優良顧客になっている」ではなく「○○銀行で投資信託の大口顧客になっている」といった具合です。聞いた時点で営業担当がそれ以上の情報を持っていなければ、さらに具体的な情報を集めるよう指示するのです。その過程で、裏付けのある情報なのかそうでない情報なのかがはっきりしてきます。裏付けのない情報は、嘘と同じでディテールがないものです。こうしたやりとりをしていくうちに、営業担当の情報収集力も向上していきます。
営業担当とて取引先の見立てを誤れば会社に損失を与え、自分の評価にもそれが跳ね返ってきます。営業パーソンにそこをよく理解させ、取引先を見分ける術を身につけてもらう。それも審査の重要な役割と言えます。