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  • 決算書のもらい方 ~その効用とポイント~

2014.02.14

[企業審査人シリーズvol.20]

「営業担当が新規の申請書に決算書を添付してますよ。初めて見ました」
 珍しそうな声を上げた青山に、課長の中谷が立ち上がって近寄ってきた。
 「初めて?たまにはあるんだけどな。ああ、札幌支店の山下君ね。さすがにしっかりしてるわ」
 中谷はそう言って、青山からひょいと決算書を取り上げた。
 「ああ、でも惜しいなあ。貸借・損益の本表、それも1期だけか」
 「いいじゃないですか、新規取引で決算書を付けてくるような営業パーソンはなかなかいませんよ」
 営業パーソン寄りの発言をした青山に、中谷が言った。
 「そりゃあ、そうよ。素晴らしいことだわ。ただ、決算書のもらい方も少し啓蒙していかないとね」
 「決算書のもらい方?最低3期とか、販管費の明細付でとか、そういうことですか?」
 「まあ、そういうことよ。こういうものはダメでもともとなんだから、言ってみて、出してもらえばラッキーなのよ。せっかくもらうなら、情報は多い方がいいに決まってるでしょ。それに、営業担当の中には決算書をよくわかってない人もいるから、何をもらってくるべきなのかをちゃんと示した方がいいのよ」
 中谷が説明していると、水田も口を挟んだ。
 「そうですな。ただ、あまりに安易に決算書を出してくる先も要注意と伝えなきゃいけませんね。詐欺会社はきれいな決算書をホイホイ出すからの」水田は青山の方を向いて、うなずいた。
 「まあ営業時代に一度も決算書を付けなかった青山は、それ以前だけどね。」
 中谷がニヤリと笑うのを見て、青山は「資料を返してください」と中谷から決算書を取り上げた。

決算書入手の効用とポイント

 取引先から決算書を直接入手することは審査の理想です。現実には営業先は顧客ですから、そこでの力関係から、決算書をもらえない(くれと言えない)ことが多いものですが、それでも「ください」と言ってみる価値はあります。とくに売り手優位の局面や新規の取引では、最初から諦めずに、営業担当として相談して入手に動きましょう。新規取引や取引継続の商談にあたって、営業担当にヒアリングを指示している審査部門もあると思いますので、その行動リストに取り入れておくとよいでしょう。

 では決算書はどこまでもらってくるべきでしょうか。決算書は貸借対照表・損益計算書と明細表(製造原価明細・販売費及び一般管理費明細)・株主資本変動計算書で構成されますが、重要な取引であったり、信用上入念な確認が必要であったりする相手先には、税務申告書一式をもらいましょう。税務申告書は納税のために税務署に出す決算資料で、前半は税務申告の形式を整えた書類ですが、後半にいわゆる決算書が添付されており、その決算書には各科目の詳細な内訳まで添付されています。
 売掛金や受取手形については主な相手先と金額、銀行借入についても借入の本数毎に金額や金利、期間などが掲載されています。税務申告書はたいてい事務所に保管されているものなので、コピーをもらえなくても、書類を出してもらってピンポイントで説明を求めることが可能です。
 なお、仮に税務申告書を入手できた場合、表紙の税務署印も確認します。印がないものは、「提出されたもの」でない可能性があります。

決算書が複数あることも

 「決算書は調査会社からもらえばいいよ」という審査担当者もいらっしゃると思いますが、世の中には決算書を何通りか作成している会社があります。調査会社用・業者登録用・銀行用といった異なる決算書を用意しているケースもあるようです。そう考えると、複数のルートから決算書を取り寄せて照合するという作業も有益なのです。入手した決算書に不審な点がある会社や、コンプライアンスの観点で疑問がある会社については、ピンポイントでヒアリングしてみるとよいでしょう。
 「顧客に決算書を出してもらうなんてハードルが高い」と考えて何もしていない場合は、より関係を深めていく場面で信頼の証として求めてみる、といった動きから始めてもよいのではないでしょうか。「これからさらに重要なパートナーになると考えているので、ご協力いただけませんか」というアプローチです。

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