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  • 営業部門との関係 ~対立から協力へ~

2014.03.07

[企業審査人シリーズvol.23]

「だから、こんなんじゃ通せんよ。もし取引したいんなら、信用できる材料を持ってきてくれよ」
 隣の水田が怒鳴っている。珍しいこと・・・ではない。自分の弟子と見ている青山に対しては優しいが、それは水田の対人対応においては希なケースだ。角のとれないベテランとして、営業パーソンや同僚・後輩はもちろん、上司の中谷にすら噛み付くのがふだんの水田である。

 ガチャン・・・と電話が置かれた後、青山が水田にそっと声をかけた。「また営業からの押し込みですか」
 「そうじゃ。営業部の鎌畑のやつ、営業成績はいいが、見分けができずこういうのが多くて困る。今回は何とかなりませんか、なんて言っとるが、ならんもんはならん!」
 青山には、興奮冷めやらぬ水田の頭上に湯気がのぼるのが見えた気がした。
 「どんな案件ですか?」今日はやることが多いが、青山は興味につられて手を止め、水田に聞いてみた。
 「新規取引じゃが、調査会社の報告書じゃ赤字続きで債務超過に転落しとる。起死回生の大口の商談があるからと言うんじゃが、他の仕入先はどうも撤退しつつあるようじゃ」
 「保全もできなそうですか」
 「役員報酬もたいして出してないし、ホントにカツカツなんじゃろ。鎌畑はもう中堅なのに、申請を上げてくる前に考えろってもんじゃ!」
 青山が異動してきてからも、月に何度かはこういうやりとりがある。営業部とフロアが異なるので大抵は電話のやりとりになる。1年前まで営業部門側でこうしたやりとりを聞いていた青山は、「もう少し顔を合わせて話ができるといいのにな」と、心の中で思った。

営業と審査の対立軸

 売上を立てたい営業部門と、取引の安全性を見てブレーキをかける審査部門の間では、このようなやりとりは珍しくないでしょう。こうした場面でどちらが強くなるかは、会社の方針や体制によって異なります。「売上重視か、利益重視か」という方針によって力関係は変わります。審査部門はあるが、営業部門が圧倒的に強くて審査はほとんどの案件を通さざるを得ない・・・そんな話を聞くこともあります。審査部門が強い場合でも、水田と鎌畑のようなやりとりは日常茶飯事と言えるでしょう。

 会社の損失を最低限にとどめるべく、ブレーキをかけることを使命として、営業パーソンには情に流されず言うべきことをビシッと言う。それは審査部門の基本線です。一方、汗を流して見つけてきた取引にブレーキをかけられる営業パーソンは面白くなく、ときには感情的に審査担当に向かってきます。そういう営業パーソンを、論理的に、ときには心情面に訴えながら納得させるのは、審査担当者の腕の見せどころです。

営業部門との力関係と協力関係

 営業部門とどういう関係を作っていくか、ということは審査部門の課題でもあります。審査が使命感を強めるあまり、対立軸が際だつような関係になっては、本来営業部門が持っている重要な取引情報が上がってこなくなる可能性がありますし、密な情報交換や相談があれば引き出せたかもしれない利益率や保全の交渉を引き出せず、過度に保守的な与信判断に倒れてしまう可能性も出てきます。
 攻めと守りの両面を捕捉する、戦略的な与信管理を目指すなら、営業部門と協力関係を作ることは欠かせません。取引先を見つけてくるのは営業部門であり、彼らが取引先を選別する眼をどれだけ持つかによって、審査部門の業務量や業務の質が変わってきます。経験の浅い営業パーソンに取引先を見分ける方法を教え、判断がつきかねる場合に相談に乗る。そういう関係ができると、ムダな審査案件が減り、過度な保守化による機会損失を減らすことができます。
 審査部門にも、営業担当に毅然と向かう水田のようなタイプと、営業担当の横に並び相談に乗るタイプの両方が必要なのかもしれません。課長の中谷は相談型の審査部門を目指しており、青山は営業の経験を生かした相談型の審査人を目指していくことになりそうです。水田とはよい補完関係が築けるかもしれません。

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