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  • 仕入先の与信管理 ~商流確保と与信リスク~

2014.03.28

[企業審査人シリーズvol.26]

「青山、五輪製作所の調査報告書をとっておいてくれない?」
 課長の中谷が言った社名に青山は聞き覚えがあった。五輪製作所って、うちの外注先じゃなかったっけ?総務部の同期との会話で何度か耳にしたことがある。
 「うちの外注先を調べるんですか?」
 「そう、年に1回は調べるのよ。何が目的か、わかる?」
 中谷の質問返しだ。いつも眼鏡の縁が光る。微小なLEDライトでも仕込んでいるかのように。
 「商品の安定供給が滞るとお客さまにご迷惑をおかけするから・・・ですよね?」
 光を跳ね返すように答えてみた青山だが、眩しさに負けて語尾は折れた。
 「そう、それが一番重要な目的。だから大事な外注先や仕入先には定期的に調査をかけてるの。ただ、五輪製作所の場合はそれだけじゃないわ。うちに与信リスクがあるから」

 ?・・・青山の頭に疑問符が浮かんだ。その疑問符を見た中谷はもうひとつ質問した。
 「五輪製作所には何を発注してるか、知ってる?」
 「確か学校用の特殊な建材の加工を頼んでいたような・・・」
 「五輪の会社の規模は知ってる?」
 「たしか3人くらいでやってる小さな会社でしたよね」と答えた後、青山の顔に・・・!と感嘆符が浮かんだ。
 「そうか、前渡しがあるんですね」
 「そうそう。わかってきたじゃない」中谷がちょっとうれしそうな顔をした。

仕入先を管理する目的

 与信管理は売上債権の回収不能というリスクを未然に防ぐことを主目的とするため、販売先をその対象とするのが常です。しかし、仕入先の管理を一緒に行うケースもあります。
 その目的のひとつは、青山が答えたとおり、安定した仕入を確保し自社の商流が止まることを未然に防ぐことです。仕入先が急に倒産すると、回収事故こそありませんが、自社の顧客に約束した納品ができず、顧客に迷惑をかけて、自社の売上と信用を落とすことになります。代替業者をすぐに確保できればまだしも、それが簡単でないこともあります。こういう観点で、とくに建設業者やソフトウエア開発業者は下請先を調査することが多いようです。

 もうひとつの目的は、今回の事例のように与信リスクが発生しているケースです。外注先や下請先は個人職人を含め零細業者である場合が多く、十分な資金力を持ち合わせていないことがあります。こうした業者と季節性の商材を取引する、あるいは発注量が一時的に膨らむような場合には、資金繰りを助けるために下請代金を前渡しする需要が生じます。前渡金が発生すると、発注品の納品前に下請先が倒産した場合にそれが自社の不良債権となります。また前渡はなくても、下請先に材料を預ける寄託行為が生じれば、この材料が与信となります。

 今回登場した五輪製作所は家族で営む零細業者で、学校の工事に用いる特殊商材の加工を依頼しています。学校の工事は学校が休みに入る7~8月や3月に行われることが多いため、一時的に発注が膨らむ分の資金支援を前渡しという形で行っているわけです。前渡金が恒常的に一定以上発生する場合は、管理手法として与信限度と同様、「前渡限度額」を設定しておくことも有益でしょう。

競合状況の把握や不正防止の効用も

 仕入先を調べる主な目的を説明しましたが、他にも仕入先を調査しておく意味はあります。例えば、仕入先が同業者と取引しているかどうかを調べる必要性です。とくに機密性が高い取引をしている場合はそうした情報が同業他社に流れるリスクがないかを確認する必要があります。
 また、仕入先が自社にどの程度依存しているかをチェックして、納入価格交渉に活用することもあります。
 仕入先の選定や管理は調達部門に委ねているという会社もありますが、審査担当が販売先与信の管理ノウハウ、すなわち「取引先を見分ける」ノウハウを使って管理を一元化するのは効率的です。前回紹介した循環取引のような不正にも気づきやすくなります。戦略的な商取引という側面では、とくにメリットが大きくなると言えるでしょう。

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