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  • 営業担当との同行 ~青山の初同行(前編)~

2014.04.04

[企業審査人シリーズvol.27]

「青山も審査人デビューをする前に、同行しておこうか」
水田と何やら話し込んでいた中谷が、青山のほうを向いて言った。
「いいわよね?」と同意を求める中谷に、書類を読み込んでいた青山はきょとんとした顔を上げた。
「営業部の与倉君が出してきた増額申請について、取引先に確認したいことがいくつかあるの。与倉君に同行して聞いてきてよ」

 いよいよ同行か。営業部にいたから外回りには慣れているが、他の人と一緒に商談に行くのは新人の時以来だ。相手の与倉は青山の営業部在籍時に隣の課でひとつ年下、何度か一緒に飲んだこともある。
「もちろん行きますよ!」青山はどこかわくわくした気持ちで、弾んだ声で返事をした。
初同行の用件を中谷に確認して与倉に連絡すると、あっさり訪問日時が決まった。審査の同行について与倉がどう思うか少し気になっていたが、「むしろ助かります」と言ってくれたので気持ちも楽になった。 
 決算書についての疑問が2つ、契約に関する確認事項が1つ。与倉は1年目の営業部員なので、初同行として手頃だと中谷が考えてくれたのだろう。
 昼休み、休憩室で缶コーヒーを飲んでいた秋庭に青山は聞いてみた。

「秋葉さん、審査パーソンが同行するときに気を付けなきゃいけないこと、ありますか」
「そうだね。営業パーソンにとっては大事なお客さまだから、仕切りは任せて、相手に厳しい突っ込みを予定している場合は事前に相談しておくことかな」そう言った後、秋庭は何かを言いかけてやめた。
「他にもあるんですか?」
「青山は大丈夫だろうがな。俺は先方の社長に質問をして、よく社長の逆襲を受けるんだよ」
・・・。青山は、さもありなんと思いながら、口をつぐんだ。

同行の効用

審査部門が取引先を訪問する頻度は、会社によって異なるようです。しかし審査担当としては、営業担当と同行しての取引先への訪問は本来積極的に行いたいものです。
 審査担当は取引先の信用を見極めることを仕事としていながら、通常は机上で書類を集めて審査せざるを得ず、現地の情報は営業パーソンを介して集めるのが常です。
 しかしこれまでも触れてきたように、営業パーソンを介した情報は力量の不足や「売りたい」意識によるバイアスに左右され、重要な定性情報を見落とす可能性も拭えません。そもそも書類だけでの審査は、定量情報を重視し危ない取引をズバズバと切っていく与信管理には向いていますが、取引先の定性的な側面まで見て保全や利益の観点から攻めていく与信管理になればなるほど、現地で得られる情報が必要になります。

 ちなみに帝国データバンクには「現地現認」という社是があり、「現地で自分の眼で確かめよ」という調査の原点として、百年以上にわたり語り継いでいます。

同行しやすい風土づくり

審査担当の同行は審査の精度向上のみならず、営業担当の教育機会にもなります。審査担当がどういう観点で審査をしているのかをその場で見せることができ、決算書をよく読めない営業パーソンに目の付けどころをケーススタディとして教えることもできます。
 こうしたことを重ね、営業担当が予め審査の要所をおさえた商談を進められるようになるのが理想です。中には審査を通す「抜け道」を探る営業担当もいるかもしれませんが…。

 客先に審査担当を同行させることを嫌う営業担当もいますが、責任感が強い営業担当なら審査パーソンの同行によって商談の安全性を担保できるという安心感を持つでしょうし、商談で細かいことに自信がない若手なら、なおさら同行は心強いものになるはずです。
 それでも極度に同行を嫌う営業パーソンがいるなら、属人的でおかしな営業をしている可能性を疑うべきかもしれません。
 そうはいっても営業部門との力関係や風土、そもそも人が少なくて同行する時間がとれないなど、同行が容易でない審査部門もあると思います。しかし、同行はこれまで触れたメリットに加え、何より営業担当とのコミュニケーションの場として有益であり、積極的に行える環境や関係を整えたいものです。

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