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  • 売上拡大期の企業の審査 ~乱反射の中で~

2014.04.18

[企業審査人シリーズvol.29]

「景気がよくなってきたとはいえ、調子がいいなあ」と調査報告書を見た青山が唸った。
 「何やってる会社じゃい」と日経産業新聞を読んでいた水田が新聞紙の上から顔を出した。
 「もともとは中堅の工務店ですけど、2年前から太陽光パネルの代理店になったみたいで、売上がぐんぐん伸びてます。ほら、見てください」と青山が報告書を水田に差し出した。

 「ほんとじゃ、こりゃ景気がいいの。売上がこの3期で2倍じゃな。」
 「いいお客さんになりそうですね、営業の三須田君もホクホクだな」と言うと、水田の眉間に皺が寄った。
 「太陽光関係は景気のいい会社が多いね、俺も昨日審査したよ」と秋庭が前から口を挟む。
 「こういうときこそ、審査人の腕の見せ所じゃ。しっかり目利きをせんとな」
 そう言った水田の眼が鈍く輝いたのを青山は見た。
 「でも利益もしっかり出てますし、もともと財務内容が悪い訳ではないので、悪くなさそうですけどね」
 そう言う青山に、水田が眼光をそのままに解説モードに入った。

 「原発が止まって代替エネルギーの需要が高まってから、国の政策に乗って売電事業をやる会社が増えてるからの、パネルを販売する業者も国内大手から中国や韓国のメーカーまでたくさん出てきとる。いわゆる普及期で市場のパイが広がっておるから、今はどこもそれなりに儲かるんじゃ。ただそれだけ競争も激しいからの、いつまでもこのペースがつづくわけじゃなかろう」
 「まあそうですね。液晶テレビ、スマホ、LEDとかを見てたら、そういう動きもわかりますね」
 「消費財と違って単価が大きいし、住宅向けだけじゃなくて産業向けもあるから、しばらくは拡大しそうですけどね。業界を疑う必要はないけど、拡大期の業界にはいろんな会社が集まるから、中には要注意の会社も出てきますよね」
 「そうそう。どの業界でもちゃんとした会社と危ない会社はあるからの、色眼鏡はいかん。じゃが、景気のいい商材を扱う会社は、扱う商材の競争力や売上実績の裏付けをとったり、売上拡大に乗りすぎて無茶をしていないか、とか、ちゃんと見んとな」
 「そうか。そのあたり、この会社はよくわからないので、また営業に同行させてもらいましょうかね」
 「こら、まずは書類の精査をしてからじゃろ」と水田が釘を刺すと、青山は舌を出して報告書に目を戻した。

審査は不況耐性から発展性へ

 アベノミクスによる景気回復効果は未だ斑模様ですが、リーマンショックの荒波を超えて売上回復を果たしている会社が増えています。
 こうした中で、長い不況期には厳しい環境下での体力の残り具合に置かれていた審査の比重が、売上拡大の持続性や発展性といったところに移りつつあります。
 少し前はLED、最近は太陽光・スマホ関連など、活気のある商材や業界は移り変わっていきますが、こういう業界には異業種からも多くの会社が参入し、中には信用に難がある会社や危うい取引が紛れ込むこともあります。

 LEDや太陽光関連の詐欺事件が新聞紙上を賑わせるケースも出てきています。自社の営業が「おいしい話」に巻き込まれるリスクもあるため、審査は慎重を期する必要が高いと言えます。

売上拡大企業の審査

 こうした業種に限らず、売上拡大期の企業については、売上実績や商流の裏付をとる、商材の評判を確認する、資金調達の余力を確認する、内部体制を確認するといったところが審査のポイントになるでしょう。
 売上実績については、どこに何をどれだけ売っているのかという基本情報をしっかり押さえることです。売上が増える会社は営業基盤が変化しているわけですから、「いつの間にそんなところに売っていたのか?」といったことにならないよう、変化を確認していくことが重要です。

 また代理店などの場合は、扱う商材の評判や優位性について情報を集める必要があります。新しい商材の場合は評価が定まっていない側面もありますが、その商材に詳しい取引先に聞いてみるといった形で裏付けをとりましょう。
 さらに売上拡大を資金繰りが支えられるかという点で、資金調達余力のチェックは不可欠です。売上が増える会社は資金需要が旺盛です。利益により当面の返済原資は確保できると見ても、借入水準が年商の半年分を超えるなど危険水準に入った場合は、売上が停滞局面に入った途端に返済に窮することが出てきます。
 内部体制については、営業員の急激な増員により教育が追いついていないことがないか、楽観的過ぎる見通しによって過大な投資や支出をしていないか、といった点がチェックポイントになります。

 売上拡大企業への与信は、リスクもありますがリターンも大きくなります。こうした案件の審査は、まさに情報力や目利き力が試される、審査人の腕の見せどころと言えるでしょう。

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