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  • 審査担当者の学習と資質 ~デビューまでのカウントダウン~

2014.05.09

[企業審査人シリーズvol.32]

少し前のこと。3月の最初の出勤日の夕方、青山は中谷に会議室に呼ばれた。青山がやや緊張した面持ちで会議室に入ると、中谷が微塵も深刻さのない顔で切り出した。
「4月から審査人デビューよ」
何だ、そのためにわざわざ会議室か。でも、見習い修業の身で、見習いの卒業を認めてくれたわけだ。当初から来年4月と言われていたが、ひとまず留年はせずに済んだのだと、青山は改めてうれしくなった。

「はい、そのつもりでやります。よろしくお願いします!」
殊勝な返事をした青山に、「ところで・・・」と中谷が続けた。       
 「残り1ヵ月だけど、仕上げとして何をしておくべきだと思う?」
「実務はかなりイメージできたので、ベースとなる知識を補強する意味で、6月に簿記2級を受験できるように準備しています」
「そうね。簿記は決算書を作る側の仕組みがわかるから、勉強して損はないわね」
「逆に中谷さんからこれはやっておけ、ということがありますか?」
「今月から週に2件ずつテスト的に審査をしてもらうわ。それを卒業検定にするから、頑張ってね」
「お手柔らかにお願いします」と何気なく言った青山に、
「お手柔らかな上司かどうかは、もうわかっているわよね」と中谷がにやりと笑った。 

審査人が持つべき知識と学習

 審査、与信管理の業務というのは一定規模以上の会社では専任者を置いていますが、会社の中ではメジャーな職種ではありません。「与信」という言葉を入力すると、変換候補は常に「余震」が筆頭で、「与信」が候補にないこともある。仕事に関するアンケートに回答していると、職種や部門を回答するときに選択肢がない。子供に自分の仕事を説明するのに苦労する。審査担当者ならこういう経験をされているでしょう。
 しかしメジャーかどうかはともかく、審査や与信管理の担当者には、これまで見てきたようにかなり幅広い知識や能力が求められていることがわかります。
 知識面では財務・法務の基礎知識がベースとなり、税務・企業経営・企業再生・金融工学といった分野が応用知識になります。これらは市販本や講座が多いのでそうしたものを活用することができますが、本人の達成感や対外的な説得力を高める意味で、中谷が青山に奨めているように、関連資格を積極的に取得したいものです。
 財務については簿記1級がひとつの到達点です。法務については、東京商工会議所のビジネス実務法務試験があります。もっと初歩からということであれば、銀行員向けの各種試験が役立ちます。銀行業務検定協会と金融財政事情研究会が、それぞれ銀行員向けに財務・法務等の試験を実施しており、銀行以外の会社員も自由に受験できます。財務と不可分な税務についても、この試験が用意されています。
 総合力では中小企業診断士やMBAが到達点ですが、銀行業務検定の経営支援アドバイザー試験は金融や経営支援、企業再生についての広く浅い「入り口」になります。
 業界の動向や商慣習は営業経験が糧となります。その後はOJTで補っていく部分が大きい業務ですが、これまで触れてきた、「商流を掘り下げた審査」や「営業担当との同行」は審査人としての経験値を高める重要なOJTとも言えるでしょう。

審査人に必要な資質

 資質という点ではどうでしょうか。高い倫理観・正義感、そして本質を探ろうとする探求心・洞察力といったところがベースになるでしょう。情報を引き出すためのコミュニケーション能力、とくに相手の話を引き出す「聞く力」、そうした動きを支えるフットワーク、情報を鵜呑みにしない懐疑的な姿勢なども重要です。
 知識・資質、いずれも幅広く、審査・与信管理担当というのは実に奥が深く、学習と鍛錬が必要な、総合力を問われる仕事と言えます。青山は正義感とフットワークの軽さを買われて審査課に来ました。学習が進んでいるところを見ると、探求心の部分でも合格のようです。さて、どういう審査人に育っていくか。楽しみです。

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