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  • 審査の「目利き」 ~その醍醐味~

2014.05.23

[企業審査人シリーズvol.34]

居酒屋で話し込む青山と阿佐見の会話はまだ続いた。2人には共通点がある。生まれは関東だが、親の代は九州がルーツで、酒に強い。
「でも審査って、要するにカネを払える会社かどうかを見極めるって仕事だよな」
「まあ平たく言えばそうだね」と阿佐見の言葉に返した後、青山の頭には中谷の言葉が浮かんできた。
「いやいや、待て。それだけじゃない。今カネを持ってるか、だけじゃなくて、これから一緒に成長していける相手かも見るんだ」
「なになに?何が違うんだ?」きびなごのフライをつまみながら阿佐見が、酔いとともに食いついてきた。
「要は、今貧乏かどうかということだけで判断するんじゃなくて、今は貧乏でも将来大金持ちになる可能性がある相手かどうかを見るってことよ」酒には強いが酔わないわけではない。こころもち、言葉が荒くなっている。
「つまり相手の将来性を見極めるってことか」
「そうそう、そうしないと、今の状態だけで判断したら取引していい相手がどんどん減って困るからな」
 青山は中谷に教わったことをかなり粗く反芻した。
「そうか。俺たちの同期も今はみんな貧乏だが、10年経ったら誰がどうなるかわからない。そう考えると審査の仕事も面白そうだな!」
阿佐見が酔って少しトロンとした眼を輝かせながら言った。
青山は、審査ってやっぱり面白いなと、将来の自分の仕事にぼんやりした明るさを感じていた。

審査は「人の目利き」

 取引先の良否を判断することは、人の良否を判断するのに似たところがあります。独立創業した会社は、設立直後たいてい資金不足で自転車操業です。
 そこからどこまで業績を伸ばしていくかは未知数であり、そうした会社と取引するか否かは、「将来性をどこまで信用するか」の判断です。われわれ調査会社は、こうした会社を度々調査で訪問しますが、そのときに重視していることは、経営者のビジョンや事業計画です。
 事業を興した創業者は誰もが熱く、雄弁です。訪れると、自分のビジョンを滔々と語る経営者が多く、話に引き込まれてしまうこともあります。ただ引き込まれては、調査会社の仕事ができませんので、われわれは社長のビジョンや計画にどれだけ実現性があるか、実現のためのステップがどこまで進捗しているか、どこに難所があるか、といったことを質問によって客観的に検証し、実現可能性を見定めるのです。

目利きによる営業支援

 これは業歴のある会社でも同じことで、、「業績が厳しいときにそれを立て直すための、手立てや計画をどれだけ持っているか」、私たちは過去の業績推移だけでなく、そうした将来性の部分を見ながら会社の評価を行います。業績の悪いときほど、これからの挽回のビジョンを聞きたいと思っているのです。
 中小・零細企業は経営者次第と言われ、企業規模が小さいほど会社の命運を計る上で経営者が占める比重は高くなります。人のよい経営者が必ずしも成功するわけではない。いい社長なのに騙されて焦げ付いた、いい社長だけど会社は債務超過、といった例は枚挙に暇がありません。
 調査や審査にはまさに「人を見る」眼力が必要となるわけです。営業パーソンは「売る」という目的を持っている上に、自社について雄弁に語る経営者に直接対峙しますから、相手のペースに引き込まれるリスクを常に抱えています。それは、結婚したくて焦っている人が合コンに飛び込むようなものです。審査パーソンは相手に直接会わないという立場で客観性を担保できるわけですが、仮に相手に会う機会があっても冷静に相手を見極めるだけの対人能力が求められます。
 将来にわたり収益に貢献する相手を見つけること、見つけてきた営業パーソンの肩を押してあげることも審査の醍醐味なのです。

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