登記・役員・大株主その1【報告書と登記主義】~報告書の読み解き方-1~
2014.05.30
青山と阿佐見の居酒屋の会話から1年、4月に審査人デビューを控えた青山に、中谷は調査会社の横田から報告書の読み方についてレクチャーを受けたらどうか、と提案した。
「横田さんは先日紹介していただきましたけど、そんなこともしてくれるんですか?」
「そうよ。時間は調整しなきゃいけないけど、前にも秋庭君に説明してもらったことがあるわ。私も教えるけど、実際に報告書を書いている人に聞く話はまた違うものよ。私から頼んでみるわね」
そういう話をした1週間後の3月のある日、ウッドワークの小会議室に調査員の横田が青山と一緒に座っていた。中谷の要請を横田が快諾し、3時間コースのレクチャーを提案してきたのだ。その初日・・・さっそく、話の中身に入ろう。
「このページは商業登記の情報が多いですけど、青山さんも商業登記はもうかなりの数、見てますよね」
「ええ。取り込み詐欺業者の商業登記も見せてもらったことがあります。登記事項がコロコロ変わっている場合は危ないんですよね」
「そうですね。たしかに詐欺業者を見分ける手段として商業登記は重要です。
ただ、それだけじゃありません。私たち調査会社では『登記主義』という言葉があるくらい、商業登記を重視してるんですよ」
「それは例えばどんなことですか?」青山が興味深げに横田の顔を見た。
「調査報告書には企業コードというのが付いてますよね。私たちは調査依頼を受けると、依頼された会社がまずどの企業コードの会社なのか、あるいはまだコードがない新しい会社なのかを特定するところから始めるのです。これをちゃんとしておかないと、社名や住所が同じ会社を区別できないんですよ」
報告書は「登記主義」で作られる
例えば役員が替わっていても、商業登記の変更が行われるまでは原則として役員欄の役員名を更新せず、変更予定を付記します。調査先の社長が「役員が替わったよ」と言っても、それを事実として証明するのは商業登記より他にないからです。
したがって報告書をご覧になる際には、調査時点の商業登記の状態をベースに報告書が作られていることをご理解いただいておく必要があります。
取引先管理のベースにもなる商業登記
例えばビール製造大手のアサヒビール。当社の報告書を見ると、創業は明治22年ですが、設立は平成22年です。これは報告書の設立年に商業登記上の設立年を掲載することになっているためで、アサヒビールの場合は旧事業会社が純粋持株会社に移行する際、事業会社の事業継承の受け皿として新たに会社を設立しているわけです。
また企業の合併では、報告書は商業登記が残る「存続会社」がどちらかを見て、存続会社の報告書(企業コード)を活かして報告書を作ります。
会社は社名変更や住所移転によって形を変えていくため、これらを管理することは実は容易ではありません。法人登記という「器」と事業実態という「中身」は組み合わせが変わっていきます。
古いデータでは佐藤商事となっていたが、その後何になったんだっけ・・・?取引先データベースに古い会社名と新しい会社名がどちらも登録されていて、データが混在してる・・・・こういうことはよくあります。調査会社においては大量の企業情報をこうしたことなく一元的に管理するために、企業の存在や同一性を商業登記によって確認することを原則として行います。新規の調査の場合、われわれは閉鎖登記簿の履歴事項を追いかけ、「この会社は実は別の会社だった」といったがないようにしています。
こうした管理によって、今では企業コードは取引先管理のコードとして多くの会社でご利用いただいています。
商業登記の売買
起業家はきれいな登記で会社を興したいと思うのではないか・・・という考えから、休眠会社の商業登記を買収しての創業は、それだけで信用を低く見られるのが一般的です。休眠会社を買収した会社が必ずそうではないにせよ、取り込み詐欺業者の会社の多くがこうした休眠会社の商業登記を買収したものであることは事実です。商業登記の確認が信用調査の基本と言われるゆえんです。
企業信用調査
https://www.tdb.co.jp/lineup/research/index.html
あらたに取引を始めるとき、既存取引を拡大するとき、同業他社を分析するとき、必要なのは正確な情報です。帝国データバンクはインターネットなどからは得られない、現地調査による情報と長年のノウハウを基にした情報分析力で、精度と鮮度の高い信用調査報告書を提供します。
ビジネスシーンにあわせた信用調査報告書の活用方法や調査報告書の読み方資料などをご覧いただけます。
調査報告書の読み解き方コラムシリーズ
・従業員数・設備の内容から「ヒト」「モノ」の能力を測る<従業員・設備概要>
・社長の経営経験・リーダーシップを判断<代表者>
・企業の歴史は将来を占う指針<系列・沿革>
・最大6期の業績から収益性をチェック<業績>
・支払い・回収条件は?取引先との関係は?<取引先>
・メインバンクとの関係は?資金調達力は?<取引銀行>
・必要な資金を確保しているか?不良債権はないか?<資金現況>
・企業の現在と将来像をつかむ<現況と見通し>
・企業経営の健全性を把握<財務諸表>