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  • 登記・役員・大株主その2【登記事項の変化】~報告書の読み解き方-2~

2014.06.06

[企業審査人シリーズvol.36]

「取引先を継続的に管理するのも大変なんですね。知りませんでした」と青山が言うと、
「報告書の中身からは少し逸れた話ですけど、前提として知っておいていただいたほうがいいと思いましてね。さて、中身のほうですが、商業登記についてはまだまだお話することがありますよ」と横田が続けた。

「商業登記の重要性は理解しているつもりですが、日常の審査では取り込み詐欺業者のような登記にそうお目にかかるものじゃないし、正直なところ、登記から得られる情報は会社のプロフィール程度なので、あまり使えないなと思っていました・・・」
「詐欺業者の例は極端ですけど、商業登記事項が変化したときにはいろんな背景が潜んでいるので、われわれはよく見ていますよ」と横田が返すと、青山の目に「どんな?」という字が浮かんだ。
「たとえば、ある会社の本店が移転していたとしたら、青山さんは何を想像しますか?」横田が聞いた。
「そうですね、手狭になって広いところに引っ越した、というのが多いんじゃないですかね・・・」
「その逆だったらどうします?」横田が青山の目をのぞき込むように聞いた。
「逆?・・・そうか。賃料削減のために安いところに引っ越した、というケースですね」
「商売は信用ですし、本店を移転すると名刺を刷り直すといったコストもかかります。それでも移転するには、それなりの理由がありますよね」
「商号や住所の変化は大きいですけど、役員は改選でよく変わりますね。何を読みとるべきですか?」
「役員は2年任期で改選されますが、同族企業ならば何年も同じ人が重任するし、非同族で役員がしょっちゅう替わる会社もあるので、そういうところから企業の性質が見えますね。役員が替わりすぎるのはシグナルですが、逆に何年も変わってないと、高齢化してないかとか、後継者がいるのかな、といった心配もします」
「そういえば、たまに代表取締役会長と取締役社長、という会社がありますけど、これはどちらが偉いんですか?」青山の質問が乱れ撃ちの様相を呈してきた。

「社長や会長などの役職名はその会社が自由に付ける呼称です。会社の代表者として決裁のハンコを押せるのは登記上の代表者なので、偉いかどうかはともかく、代表権がある人の権利のほうが重いと言えます」
「社長が一番偉いのかと思っていましたけど、代表取締役のほうが重いんですね」と青山はうなずいた。

役員について登記される内容

役員については、一般の株式会社であれば代表取締役・取締役・監査役などが商業登記に登記され、代表取締役については住所と氏名が、他の役員については氏名だけが登記されます。 ちなみに代表者の住所は報告書の「代表者」のページに記載されますが、会社の住所と同様、移転後に変更登記をしていない、あるいは実住所を伏せたいために会社の住所と同じにしている、といったケースがあり、実際の住所とは異なることがあります。この場合は代表者のページの自宅付記にその旨が付記されます。
 役員とは別に「支配人」が登記されていることがあります。氏名と支配人を置く営業所の住所が登記されます。支配人とは代表者に代わって裁判上・裁判外の行為を代行する権限を持つ人のことであり、各拠点で融資案件を抱え担保設定や訴訟手続きを迅速に行う必要がある金融機関などが登記を行うことが多いようですが、一般的にはさほど多くありません。

 また役員が退任するときには「辞任」「解任」といった表示がなされますが、「辞任」は取締役から意思表示があったことを、「解任」は会社側から職を解いたことを指すため、退任の理由は会社で何かが起きているというシグナルになることがあります。ちなみに「重任」という表現は任期満了で退任する役員が引き続き就任する場合の「退任」と「就任」を重ねて処理したことを示しており、一般的なものです。これらは商業登記でしかわからない情報ですが、調査員はこうした情報を見て取材に臨み、その背景となる情報を引き出しています。

代表者と実権者

代表については社長と称される人が代表権を持つ場合が一般的ですが、中には会長が代表取締役で社長はただの取締役、というケースもあります。これは同族会社に多く、父親の会長が息子に全権委譲をする過程でこうした体制をとっていることがあります。同族企業の場合は、後継者の有無や権限委譲の進み方がこの代表権の移行、株式保有率の変化、事業に用いている不動産の相続状況などに表れます。代表者の交代は会社の方針変化を伴うこともあるため、営業においても重要な情報となります。

 実際の商談で出てくる相手がただの取締役で、その奥さんらしき同姓の女性が代表取締役になっていることがあります。この場合は、単純に奥さんが会社を仕切っているケースもありますが、夫がオモテに出てこない事情が隠されていることもあります。議員などの公務についているケースや、刑事事件等により一時的に裏に隠れているといったケースがあります。
 デリケートな話なので予断は禁物ですが、個々によく背景を確認することが重要です。その会社の実権者や決裁権者が誰なのかをおさえておくことは与信管理に欠かせません。

役員の人数と機関タイプ

ちなみに、かつて株式会社では取締役を3名以上選任しなければなりませんでしたが、今は取締役会設置会社のみ「3名以上」が必要で、設置していなければ1名でもよいとされています。
 また会社法では、株式会社に最低限必要な機関として取締役・株主総会を定めています。それ以外のオプションとして、取締役会・会計参与・監査役・監査役会・会計監査人・三委員会(指名委員会・監査委員会・報酬委員会)などがあり、これらの機関を設置した場合は商業登記に「○○設置会社」として登記され、報告書では「機関タイプ」として示しています。中小企業では「取締役会設置会社」+「監査役設置会社」が圧倒的に多いタイプです。

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