与信管理アンケートから-2
2014.07.04
横田が持参したアンケートを前に、中谷と青山はコーヒーを飲むのも忘れて前傾姿勢を維持している。
「与信管理規定の運用に課題があると回答された方には、自由記入で課題を書いていただいたんですが、その内容がこちらでした」と横田が図表を指差した。
「運用が徹底されていない、もしくは曖昧というのが一番多くて20%。形骸化しているというのが10%。営業サイドの理解や認識が不足している、も10%弱・・・。次の、『基準・規定が不十分・あいまい』が8%というのは、最初の『運用が徹底されていない』というのと似ているわね」と、中谷が声に出して読み進む。
「与信限度額の設定や超過時の対応に課題がある、というのも7%ありますね」と青山も続く。
「どんな制度も運用不徹底や形骸化と無縁じゃないというか、運用で魂を入れる人がいないとそうなっちゃう宿命にあるわけだけど、与信管理は営業現場のいろんなケースを包含しなきゃいけないから、制度設計自体が難しいのよね。ここにあるどれもが、うちの会社でも多かれ少なかれ感じている課題だわ」
与信管理規定の課題
「そうですね。今回のアンケートではとくに取引先が300社以上1,000社未満というお客さまが、運用不徹底や形骸化の課題を挙げていらっしゃいます。それ以上の規模になるとそうした回答が相対的に減っていますが、基準・規定自体の曖昧さや判断材料不足・情報収集難ということを課題に挙げる方がもっとも多くなっていますね」
「一定以上の企業規模になると、ノウハウの蓄積に加えて規定の拘束力が強くなって、きちんとした運用がなされる半面、組織が大きいゆえに現場情報を含めて情報が入って来づらくなるという悩みが出てくるようですね」と、横田が分析してみせた。
課題の内訳
「うちも規定破りが好きな営業部の課長がいて、苦労していますよね」と青山が苦笑いを浮かべた。
「ちなみに、この課題を回答者の部署別に見てみたんですが、経営者が『情報・判断材料の不足』と『運用の不徹底・あいまい』をもっとも挙げたのに対して、経理・財務・審査部門の方は『与信限度額』に対する課題をもっとも感じていらっしゃる、という結果になりました。
経理・財務・審査の方は『営業サイドの理解・認識不足』と『形骸化』を課題に挙げられる方も多かったようです。一方で回答数が少なかった営業系の部署の方は『基準・規定が不十分』とする回答が多い。ここに、管理部門と営業部門の位置関係が見えますね。
調達・購買部門の方の回答もありましたが、こちらは『基準・規定があいまい』『現状に即していない・形骸化』という回答が多くなっています。調達部門の規定運用の難しさが表れているようです」
「やっぱりそうなのね。納得できるデータだわ。審査者の悩みは共通ね。こういう悩みをお互いに話せる仲間を持ちたいわね」と中谷が言った。
「うちで交流型セミナーを開催させてもらっていますが、普段顔を合わせることがない各社の与信管理部門の方がいらっしゃって、グループワークがとても盛り上がっています。昔は商社の審査部門同士とか、業界で横のつながりがあったようですが、最近はそういうものも希薄になっているようなので、私たちがそういう場をご提供できればと思っています」
「私も一度参加させてもらったけど、あれは楽しいわね。営業と違って、審査の同業で話ができる機会ってあまりないもの。今度は秋庭君も参加させるから、横田さん、よろしくね」
「そんな場があるんですか。私も行きたいんですけど」と青山が口を挟んだ。
「あんたはまだギブアンドテイクのギブができないから、もうちょっとしてからね」と中谷が舌を出すと、「いやいや、審査部門に異動したての方も学習を兼ねて参加されていますから、そこはあまり気にしないでください。オープンに情報交換をしていただければ十分ですから」と横田のフォローが入った。
「ところでレポートには続きがありますけど、まだ時間は大丈夫ですか?」横田が時計を見ながら聞いた。
「あるある。私は大丈夫。横田さんが大丈夫なら続けましょう。青山、レクチャーは1時間延長ということで、いいわよね」と中谷が一方的に延長戦を通知すると、青山は黙ってうなずいた。
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前回に続いて、TDBカレッジのメンバーのみなさまにご協力いただきました、「与信管理実務アンケート」の内容をご紹介させていただきました。次回まで内容をご紹介させていただきます。次回は取引申請や格付の導入状況といった、さらに実務的な内容の回答をご紹介します。