系列・沿革その2【沿革情報】~報告書の読み解き方-12~
2014.09.05
「設立の経緯、特記事項。ここは会社の歴史ですね。報告書によってボリュームがだいぶ違うように感じます」と、青山が少し遠慮がちに言った。報告書レクチャーが続いている。
「そうですね。特記事項はその会社のトピックスを時系列で掲載していますが、その会社の動きの多さ・少なさによってボリュームは変わりますし、われわれの情報の把握具合によっても変わります。ただ、商業登記事項である商号・本店住所・代表者の変更履歴は、閉鎖簿の追跡ができない場合を除いて100%掲載するようにしています。」
「確かに、古い会社にはたくさんトピックスがありますね。取材も大変だと思いますが・・・」
「一度に取材するとなると大変ですが、多くは調査の都度書き加えられてきたものです。100年以上この商売をしていますから、設立の経緯と特記事項は昔から書き継いできたということになりますね。うなぎ屋の『たれ』みたいなものかもしれません」
「何だかお腹がすいてきますね」と青山が笑った。
「そうです。取り込み詐欺業者がよく用いる、休眠会社の買収による創業は、設立の経緯と特記事項から判別ができます。創業・設立後も商号や本店移転を頻繁に繰り返している場合は、実態のわからない企業として注視すべきですね。私たちが社内でよく使う言葉で言えば『業態不鮮明』企業、ということになります」
「不良債権の発生についてもよく載っていますね」
「そうです。不良債権については『資金現況・不良債権』のページに未償却のものを掲載し、償却が済んだものは原則として特記事項に移していきます。焦付の多い・少ないは営業基盤の良否を表していますし、管理体制の良否も表すことになります。何より、連鎖倒産リスクは与信管理では外せない要素ですからね」
「なるほど。他に質問が思い浮かばないんですけど、他にも何かポイントがあれば教えてください」
「拠点や店舗の出退店についても、できるだけここに掲載するようにしています。数が多すぎたり、調査の間隔が空きすぎたりする場合はフォローしきれていないこともありますが、これも役立つ情報だと思いますよ。出店・退店の効果を業績と対比して検証することが大切です。スクラップ・アンド・ビルドは前向きな場合もありますが、お店はこれだけ増えたのに思ったより売上が増えてないな、ということがよくあります。小売店や飲食店では出店・退店が増・減収の一番の要因になりますからね。店舗の撤収が続いている場合は、事業が計画通りに進んでいない、あるいはリストラを進めていると見るべきでしょう」
一瞬の間が空き、お互いに顔を上げたふたりの目が合った。
「今日はここまで。15時28分、一応目標通りに終わりましたね。じゃあ、続きをいつやるか、決めておきましょうか」と横田が手帳を取り出した。青山も自分の手帳を見て希望日を伝えた。課長の中谷の了解はもらっていないが、来週は比較的案件が少ないようだし、大丈夫だろう。
「来週もよろしくお願いします!」エントランスで頭を下げる青山に、横田は江戸前の笑顔を返した。
創業・設立・再開
会社の経歴と調査の年輪
ベテランの調査員は取材のときに、調査先の若い取材窓口の方に「帝国さんは私よりこの会社のことをご存知ですね」と言われることが一度や二度はあります。調査という仕事は相手との信頼関係が情報の質量に影響するため、担当をころころ変えずに継続して会社を訪問させていただくことが多くなっています。よって、ベテランの調査員になると、その会社の若手社員より会社のことをよく知っている場合があるわけです。特記事項は地味な項目ですが、お客さまから「新規取引でこういう履歴はわからないことが多いから助かる」という声をいただくことが多い項目です。特記事項の質量は、調査先の会社さまとTDBの「関係の年輪」を示しているとも言えます。
企業信用調査
https://www.tdb.co.jp/lineup/research/index.html
あらたに取引を始めるとき、既存取引を拡大するとき、同業他社を分析するとき、必要なのは正確な情報です。帝国データバンクはインターネットなどからは得られない、現地調査による情報と長年のノウハウを基にした情報分析力で、精度と鮮度の高い信用調査報告書を提供します。
ビジネスシーンにあわせた信用調査報告書の活用方法や調査報告書の読み方資料などをご覧いただけます。
調査報告書の読み解き方コラムシリーズ
・従業員数・設備の内容から「ヒト」「モノ」の能力を測る<従業員・設備概要>
・社長の経営経験・リーダーシップを判断<代表者>
・企業の歴史は将来を占う指針<系列・沿革>
・最大6期の業績から収益性をチェック<業績>
・支払い・回収条件は?取引先との関係は?<取引先>
・メインバンクとの関係は?資金調達力は?<取引銀行>
・必要な資金を確保しているか?不良債権はないか?<資金現況>
・企業の現在と将来像をつかむ<現況と見通し>
・企業経営の健全性を把握<財務諸表>