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  • 取引先その1【仕入先・外注先】~報告書の読み解き方-15~

2014.10.03

[企業審査人シリーズvol.53]

「さて、取引先のページに進みましょうか」と横田がコーヒーを手にしながらページをめくった。
 「ここは取引先の商流を確認したり、得意先の銘柄を見て業績を予想したり、結構見ています」
 「そうですね。商流の確認は重要ですね。まず仕入先・外注先のほうですが、売りの与信の場合は自分の会社がここに登場してくることもありますよね。支払条件が自社の回収条件と合ってるか、なんていうのも基本的な確認事項になりますね」
 「取引があるのに出てこないこともありますよ」と青山があっけらかんと言った。悪気はない顔だ。
 「ごめんなさい、そういうこともあるでしょうね。全部を把握できているわけじゃないですから。調査では税務申告書を開示いただけることも結構あって、その場合は買掛金の付属明細から取引関係をかなり細かく把握できますが、何せ数が多いとその会社にとっての主力先から載せる形になります」
 「ライバル会社との取引がわかったりもするので、そういうところもチェックしています」
 「そうですね。それも重要です。取引シェアを見たり、あとどれだけ売り込めるかを考えたり、営業面でも活用できる情報だと思います。私たちも最近は商流をより具体的につかむように、品目別に取引先を確認したり、取引比率や金額を把握したりするように意識しています」
 「ちなみにそういうのって、調査員の意識によって変わってくるものなのですか?」と、青山は鋭い。
 「本当はそうであってはいけませんが、どうしても濃淡が出てくるのは事実です。ただうちの会社では20年くらい前から情報の充足度を本社で測定しているので、取引比率は重点事項としてその項目に入ってます」
 「そういうのって、調査員の評価にも影響するんですか?」
 「そうです。調査の成績になります。決算書の入手とか、判明分報告が少ないとか、いろんな項目を複合して評価されるようになってるんですよ」
 「じゃあ横田さんの仕事も評価されているんですね。個人的にどうやってるんだろうと気になったもので・・・」
 「昔は結論さえ外さなければいいだろう、的なところもあったんですが、今は結論を導く過程にある各種のデータがいろんな利用のされ方をしていますし、結論を導くにも論理的な手続きが必要ですからね」
 横田の雰囲気もあるのだろうが、青山からはいろんな質問が出てくるものである。
 「私たちの与信管理では、仕入先よりも得意先のほうをどうしても重視しがちですが、仕入先が安定しているかどうかというのも与信管理では重要なファクターですよね」
 「そうですね。事業が安定的に回るためには欠かせませんね。また、どういう先から仕入れているかというのはその会社の外部の信用も表していますよね。そんな大手から直接仕入れができるんだな、とか、あの会社が与信をしてるんだ、とか、そういうことはその会社の信用を計る材料になります」
 「そうか、そういう観点ではあまり見ていなかったかもしれません。これから見るときには意識します」 

仕入先の銘柄

 取引先の中でも仕入先は品目が多岐にわたることが多く、それぞれの取引が小さいことも多いため、卸売や小売であればある程度網羅的に掲載できますが、製造業の場合は主力先に掲載が限られる傾向があります。
 しかしそうした限られた情報の中にも、横田が説明したようなヒントが隠れていることがあります。とくに仕入先に信用のある大きな会社が多い場合は、そういう会社の審査を通っていると読み替えることができるので、調査先の信用のバロメータになるのです。ただ、取引関係は常に変化します。得意先も同様ですが、取引先がころころ変わるようでは事業が安定しているとは言えないため、変化も見ていく必要があります。 

外注先は外注利用状況と合わせて見る

 仕入先のページには外注先も掲載されます。この欄は調査先の会社にとっての「支払先」が掲載されると考えるとわかりやすくなります。
 商流をおさえる意味では外注先のチェックも重要です。製造業や建設業では、本業の大半を外注して、自社は企画や差配に特化している会社も少なくありません。その会社の存在意義がそういうところにあるのか、あくまで現業の腕の良さにあるのか、というところで市場におけるその会社の強みや存在価値が変わってくるからです。外注先については、決算書の製造原価明細における外注費や事業内容における外注利用の記述と合わせてチェックしましょう。 

取引条件は力関係

 支払条件は売り与信の場合に自社の回収条件と確認するのはもちろんですが、支払先の銘柄と一緒に見て力関係を確認しましょう。当たり前のことですが、信用のない会社は現金で早く支払うことを求められ、信用のある会社は多少長い支払いでも価値を感じて取引をしてくれる、というのが経済原理です。信用がなければ自社の手形を受け取ってもらえません。
 もちろん業界の商慣習もあるので一概には言えませんし、信用があっても早く支払うことで安く仕入れることにこだわる会社もあります。ただ過去に経営不振に陥った会社が窮屈な支払条件を余儀なくされているケースもありますので、上記の原則を軸に見ておくとよいでしょう。
 また、支払条件も変化の把握が重要であり、延びている場合は政策的なものなのか、資金繰りが厳しくなっていることによるものかをチェックしておくべきでしょう。なお、取引条件はその会社が開示したものであり、取引先によって異なることも実際にはあります。貸借対照表がある場合は、支払手形や買掛金の推移と合わせて変化をチェックすることが肝要と言えます。

企業信用調査

取引先の“今”と“これから”を、しっかり見極める企業信用調査
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