取引先その2【得意先】~報告書の読み解き方-16~
2014.10.10
「得意先のほうは、やはり連鎖倒産リスクのチェックが一番に浮かびますね」
青山がコーヒーのカップを口に運んだが、もう中身は空になっていたようだ。所在なげにカップを置いた。
「そうですね。帝国ニュースで債権者名簿の入手に努めているのもそのためです。調査員にはその会社の調査が割り当たったとき、前回の調査で得意先に掲載されていた会社が倒産している場合はアラームが表示されるようになっています。そこを見逃してはまずいですからね」
「そこは調査会社ならでは、ですね。連鎖倒産のリスクを回避するために、得意先は分散するのが理想であるって、よく本に書いてありますけど、実際はなかなか難しいですよね」
「そのとおりです。弊社のCOSMOS2によると年商1億円未満の会社が50%を超えていますが、企業規模が小さくなればなるほど得意先も少なくなる傾向があります。これはまあ当たり前のことで、一般個人を相手にする小売業を除いた法人相手の商売では、1社専属受注の業態、いわゆる『下請』の会社がたくさんあるからですね。こういう会社はなかなか取引先の分散といっても容易じゃありませんが、そういう会社がリスクを多く背負っていることは事実ですし、取引先の分散が理想型であることにも変わりありませんよね」
「そういう意味では、仕入先のほうも同じだという話を聞いたことがあります」
「そうです。自分の会社がその会社にとっての大口販売先の場合、取引を切ることがその仕入先にとって致命傷になります。そうなると、本来取引を見直すべきタイミングで決断が鈍ることがあるってことですよね」
「確かにそうですね。丸抱えになったところを見放すのはつらい決断ですよね・・・」と青山が唸った。
「なるほど。そういう場合は関係会社とか子会社も調べる必要がありそうですね。そうそう、あとうちの場合は売り先が住宅の建設業者さんとか不動産業者さんとかいうケースが結構ありますが、こういうところは個人相手の商売になるので、そういう場合は得意先にも参考となる情報がなかなかないですね」
「報告書では個人名が出てくることはないので、具体的な情報はない状態になります。ただ、私たちが取材するときには、個人相手であってもどういう属性の個人を相手にしているのか、固定客やリピーターがどれだけいるかといったところを引き出して、事業内容のところで説明するようにしています。相手が会社でも個人でも、優良客や生命線となる取引先があるものです。そこを押さえたいですよね」
得意先のチェックは与信管理の基本
販売先がころころ変わることも、営業基盤が固まっていない、あるいは商品へのクレーム等により他社から取引を切られているといった可能性を示す情報です。「危なくないか、偏っていないか、変化はないか」が得意先のチェックポイントです。
仲間取引のチェック
この場合も、どういう事情で仲間取引が多いのかを確認しておきましょう。
自社が売った商品の行方
「あんなところに横流しされている」「安い価格で売られている」といった情報はマイナスに作用します。そうした観点でも、販売先のその先に広がる商流は取引開始時はもちろん、継続的にチェックしておくことが大切と言えるでしょう。
なお、仕入与信で報告書を見る場合は、自社が販売先に掲載される形になりますが、この場合は自社向けの加工品や特注品がライバル他社に流れていないか、といった観点でのチェックも可能になります。
企業信用調査
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調査報告書の読み解き方コラムシリーズ
・従業員数・設備の内容から「ヒト」「モノ」の能力を測る<従業員・設備概要>
・社長の経営経験・リーダーシップを判断<代表者>
・企業の歴史は将来を占う指針<系列・沿革>
・最大6期の業績から収益性をチェック<業績>
・支払い・回収条件は?取引先との関係は?<取引先>
・メインバンクとの関係は?資金調達力は?<取引銀行>
・必要な資金を確保しているか?不良債権はないか?<資金現況>
・企業の現在と将来像をつかむ<現況と見通し>
・企業経営の健全性を把握<財務諸表>