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  • 損益計算書~千葉さんのための決算書基礎講座-2~

2015.01.16

[企業審査人シリーズvol.67] 

千葉と中谷のレクチャーは続いている。場所は、審査課の脇にある小さなミーティングスペースだ。ここなら急な電話がかかってきてもすぐに対応できて、お互いに気遣いがいらない。
 貸借対照表の話の最後に、中谷は会社設立→仕入発生→売上発生→設備購入→借入発生と時系列の貸借対照表を作る問題を千葉に渡した。貸借対照表の理解は、このように会社設立からの動きを順に追っていく作業をするのが一番わかりやすい。
 「資産の中身の吟味は奥が深そうですけど、ざっくりとした眼の付けどころはイメージできました。損益計算書のほうは、中谷さんはどんな見方をしているんですか?」
 「私は下から上に見ていくわ。最終的に利益が出ているかを、まず当期純利益で確認して、どこで何が引かれているのかを下から見ていくの。費用や損失は、下のほうにあるほど本業から離れたトピックスが多いから」
 「なるほど。特別損失とか特別利益とかですね。損益計算書にはいろんな利益や費用がありますけど、中谷さんはどこを重視していますか?」
 「本業の収益力を見るという意味で、やはり重要なのは粗利益と販管費ね。このふたつはPLの桑田と清原みたいなものよ」
 千葉の顔に無垢な疑問符が浮いているのを見て、中谷は何もなかったように話を続けた。
 「粗利益は率で見るわね。商売の原型は、仕入れたものを、仕入れ値より高く売ることでしょ。そこでどれだけ利益を載せたかを示すのが粗利益率だから、どれだけ儲かっているか、前期に比べて利幅が増えたのか減ったのかを見るのよ」
 「粗利益率というのは、粗利益を売上高で割った率ですね」と千葉が確認する。
 「そう。粗利益は売上から原価を引いたものだけど、原価は基本的に売上に比例するものだから、粗利益額も売上に比例する。だから率で見ないと、動きがわかりづらいのよ。一方の販管費は原価と違って、売上で変動する部分よりも固定費の部分が多いので、総額の大きさや総額の変化を見ていく感じね」
 「なるほど。営業外損益というところは、何だかよくわからないものが多い気がします」
 「そうね、そこは科目の中身の確認が大切ね。とくに『雑収入』とか、『雑損失』とか。額が小さければ気にしなくていいけど、大きい場合は要注意ね。ここは雑収入のほうは預金の受取金利や出資の配当金、為替差益といった金融収支に関する科目が多いけど、不動産を持っていて人に貸している場合、賃貸料収入をここに計上していることも多いわね。リベート収入なんてのも、営業外収益に入っていたりするわ。よくわからないものは確認したほうがいいけど、大事なのは毎期発生するものなのか、スポット的なものなのか、というところね」
 「なるほど、わかりました。ということは、中谷さんは粗利益率と営業利益率を重視してるってことですね」
 「そこがポイントだと思ってるけど、そこだけを見るというのも危険よ。やっぱり全体は見ないといけないわね。商売の利益の源泉は粗利益だから、まずここの利幅の大きさが会社の収益力を大きく左右する。ただ、その売上と粗利を稼ぐために固定費が多すぎると、販管費で食いつぶして営業利益が赤字になっちゃう。営業利益が稼げても、借金が多すぎて金利払いが多ければ経常利益が赤字になる。やっぱり全体よね」 

損益計算書の平均像

 損益計算書は平たく言えば、企業の1年間の損得勘定を表すもので、1年間でどれだけ売れたかを示す売上高から始まって、売るための商品を作ったり仕入れたりするのにかかった原価を引いたのが売上総利益(粗利益)、そこから事務所の家賃や給料などの販管費を差し引いたのが営業利益、そこに預金金利やマージンなどの売上以外の収入と借入金の利息などの費用(営業外損益)を足し引きしたのが経常利益、さらに不動産を売ったなどのスポット的な利益と売れない商品を処分したといったスポット的な損(特別損益)を足し引きしたのが税引前当期純利益、これから法人税等の税金を引いて最終的に残った儲けが当期純利益、となります。
 弊社で昨年末にリリースした最新の財務諸表分析統計(第57版:平成25年4月~平成26年3月)によれば、売上高10,000円に対して原価として7,128円が引かれて2,872円の粗利益が残り、ここから販管費として2,507円が引かれて営業利益が331円、営業外損益を足し引きして経常利益が380円、特別損益と税金を差し引いて当期純利益が249円残る、というのが黒字企業の全業種平均の姿です(各分析比率の平均値を用いているため、上記の各金額の足し算・引き算の計算値とは一致しません)。

損益計算書のポイントは費用の水準と中身

 損益計算書の見方は、大きく言えば「どこで儲かっている(費用が嵩んでいる)か」と「変な費用や収入がないか」という2点になります。
 前者については各段階利益を売上高で割った「利益率」を業界の平均値と比べる方法が有益です。利益の歩留まりは経常利益、当期純利益と損益計算書の下に行くほど、業界による差がなくなりますが、営業利益、売上総利益と上に行くほど業界による差が大きくなります。この利益率の数字感を“ものさし”として持っておくことは、収益の良否判定に欠かせません。
 まず、全体として儲かっているのかを見る、それから何で儲かっているのか(いないのか)を見極める。そして、今後その会社の収益がどうなるかを予想する。そういう流れで損益計算書を見ていきます。
 「変なものがないか」という点は、貸借対照表と同じです。営業外損益の雑収入や雑損失、販管費の「その他」は少額なら気にする必要はありませんが、金額が膨れている場合はヒアリングでの確認が必要でしょう。一時的なものなのか、恒常的なものなのかを見極めることが、正しい収益予測につながります。
 

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