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  • 得意先の業況確認 ~月商による裏付け~

2015.04.10

[企業審査人シリーズvol.79]

「この会社、建材の販売額が今年に入ってかなり増えてるけど、大丈夫なの?」
 審査課長の中谷が、青山が作った与信増額の審査書類を見て、青山に声を掛けた。

 「その会社は確か・・・地元のリフォーム会社との新規開拓に成功したということになっていたと思いますが・・・」と青山が立ち上がって中谷の横に立ち、一緒に書類に目を落とした。

 「なっていたって・・・この会社、3年連続で売上が微減で推移しているけど、そんなことってあるのかしら。新規取引の相手先って、わかっているの?」

 「いや、そこまでは聞いていません・・・。この日は審査案件が多くて・・・」と弱々しい声を出した青山に、中谷の厳しい声が飛んだ。

 「まだ新人なのに、ベテランみたいな手の抜き方をしちゃだめよ。営業担当の大野君に電話して、相手先を聞いてちょうだい。それから・・・できれば最近3年間の月商推移を聞くように伝えほしいんだけど」
 「月商推移ですか?」と弱々しいながらも聞き直した青山に、中谷が言葉を足した。
 「そうよ。決算書をもらっているから年次の推移はわかるけど、これだけじゃ今期の動きも含めて最近のトレンドがわからないでしょ?相手先の業況を疑うときには、そこも見ておきたいわ」

 「わかりました!さっそく電話してみます」と青山は席に戻るなり大野に電話した。
 その日のうちに大野に要件を伝えると2日後、先方が作ったと思われる過去2年間の月商推移の表と、新規開拓先の会社名のメモ書きが大野から青山の手元に届いた。

 月商推移については、3年分はくれなかったようだが、見てみると、新規取引が始まった昨年10月から売上が増加し、前年同月比プラスで推移している。青山の会社は建材商社ゆえ、工務店が相手の場合は工事進捗やプロジェクトによって月商が大きく動きやすい。
 ただ今回の相手は代理店であるため、月商の波は多少あるものの、ある程度平準化されている。また、2年分の推移があるため、前年同月との比較で増えていることが確認できた。

 次は、新規取引の相手だ。中谷の許可を得て、COSMOSNETから調査報告書を取得し、しばらく眺めていた青山はため息をついて、中谷に報告に行った。

 「どうだったの?」と中谷が、脇に立つ青山の手元にある資料を覗き込んだ。
 「すみません。やっぱり与信を絞ります」と青山が再び弱々しく答えると、中谷が聞いた。

 「やっぱり月商推移に問題があったのかしら?」
 「いや、取引開始後に確かに売上は増えていますし、裏はとれました。その点で問題はありません」

 「じゃあ何が問題だったの?」
 「相手です。他社が引いている先に突っ込んでいるようです。このままだと焦げ付く可能性があります」

 「そういうことね」と言った中谷は2~3分、調査報告書をぱらぱらとチェックして、青山に笑顔を向けた。

 「スタートはちょっと足りなかったけど、最終的には審査として妥当な判断だわ。大野君に状況を説明して、与信を見直すように伝えてちょうだい」 

業況トレンドは月商で把握

 今回の会話の中で中谷は与信先の月商データを求めていますが、それは決算書だけを見ると与信先の売上推移が停滞して見えたからです。
 3年にわたって売上が停滞している先が急に景気が良くなったということの裏付けを問うたわけですが、月商を確認するという方法は企業調査において有益な方法です。例えばある年の年商が前年比110%と聞くと安心しがちですが、この内訳が上半期に前年同期比130%、下半期に90%だったとしたら、どうでしょうか。
 印象がかなり異なるはずです。月商で見ると「年間合計」では見えない業況のトレンドが見えてきます。最近は景気回復の濃淡に加え、原油安や円安など、景気指標が動いており、これによって企業の業況が動きやすい時機です。
 今期の動きも含め、月商推移の把握とその前年同月比較に努めたいところです。なお、月商まで開示してもらえない場合も、営業担当を通じて「昨年の同じ月に比べてどうですか」といった質問をしてもらうと良いでしょう。
 具体的な比率が出てくれば、その会社の計数管理の状態も含めて把握できます。当然ながら、一緒に理由を聞くことも大切です。為替相場の変動や値上げにより、販売数量が落ちていても売上高が増えるケースも出てくるので、理由の把握が肝心です。 

取引先の先を見る

 連鎖倒産のリスクを回避するために、商流は与信先の先まで把握しておくのが望ましい、という話には以前も触れました。今回のケースでは、青山が勤める建材会社の販売先の代理店、その売り先のリフォーム会社を調べたわけですが、青山が見た調査報告書には、その会社の業績が2期連続の欠損であること、仕入ウエイトが他の建材会社から青山の建材会社の代理店にシフトしつつあること、メインバンクからの借入が減少して取引銀行が増加していることなどが書かれていました。
 青山は、これらの情報から従来のステイクホルダーが手を引き始めていると感じ、与信を絞るべきとの判断を行いました。仕入ウエイトの変化は業績が堅調な先であれば、仕入ルートの拡大などのプラス側面のものが見込まれますが、業績が悪化している局面では与信を絞られて生じている可能性もあります。上記のように、同じことは銀行取引についても表れることがあります。

 取引先のすべてについて、その先の会社まで調べるのは現実的には難しいと言えます。ただ、今回のような大幅な増枠申請においていつもより細かいチェックをしたり、中堅以上の企業についてネガティブ情報がある場合に、取引がありそうな会社を調べておいたりすることで、焦げ付きを未然に防ぐことができます。
 今回の青山の判断は、一時的に営業現場と取引先に軋轢を生むかもしれませんが、結果として手を引いておくのが正解だった場合、代理店に感謝され、自社の営業基盤も守れたことになります。そこに審査の目的があるのです。
 
 

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