税務申告書類の話 ~税務申告書だけじゃない!~
2015.05.15
その日の休み時間、経理課の木下が審査課の青山を訪ねた。先日とは逆パターンである。
「青山さん、こないだの税務申告書の別表の見方の話、大事なことを話し忘れてずっと気になっていたんですけど、今いいですか?」
「先日はありがとうございます。飲み屋でゆっくり、じゃなくて大丈夫ですか?」
青山は感謝の笑顔を浮かべつつ、木下のマニアな語り口に長い話を予感して予防線を張った。
「いやいや、そんな長話じゃないですよ。申告書以外にも会社が税務署に提出する書類があるんですが、与信管理の助けになりそうな勘定科目内訳書と法人事業概況説明書の話をしてなかったと思って」
「勘定科目内訳書というのは、申告書の決算書の後ろに付いているのを見たことがあります」
「それなら話が早い。決算書に計上された科目の内訳を記載した、主な勘定科目の内訳が記載されている、あれですよ」
「でも、内訳の全部が載っているわけじゃないんですよね。この前、売掛金の内訳を確認しようと思ったら、『その他』に括られていて、知りたいところがわかりませんでした」
「そうです。取引先が多岐にわたると手間がかかりすぎるので、売掛金なら相手先別の期末残高が50万円以上のものは各別に記入されますが、それ以外は一括でまとめられることもあります」
「他に重要そうな科目内訳ってなんでしょうか?」
「受取手形の内訳に、振出期日と支払期日の記入が求められています。金額の大きな手形が残っていれば、いつごろ回収されるのか確認できますよ。それと、仮払金や仮受金についても、勘定科目だけでは内容が判断できないので、貸借対照表の金額が大きければ確認する価値はあると思います」
「法人事業概況説明書です。これは平成18年税制改正より税務署への提出が義務化された帳票です」
「ええっと、事業の概況を説明したもの・・・ですか?」
「平たく言うと、そうです。タイトルはちょっと硬いですけど、A4裏表の一枚で、申告書よりずっと簡単です」
「申告書の内容のダイジェスト版みたいな感じですか?」と聞く青山に、木下が現物を取り出した。
「いやいや、こんな感じで、どちらかというと決算書の中身の大切な部分を抜き取ってきたようなものです。オモテ面の下左半分に損益計算書の主要科目、下右半分に貸借対照表の主要科目が並んでいます」
「なるほど。決算書に全部目を通すのは大変だから、ダイジェスト版は助かりますね」
「そうですが、注目してほしいのはそこじゃなくて、オモテ面の一番下と裏面の下半分ですよ」
「オモテの一番下…、代表者に対する報酬等の金額。なるほど、決算書だけでわかるとは限らない役員借入なんかが書かれているんですね・・・」
「その通り。同族会社ではとくに重要性の高い項目です。ほら、裏面の下半分は月別の売上に仕入、外注費、材料費に人件費の記載欄がありますから、季節変動もわかります。覚えておくといいと思いますよ」
「なるほど。これは見落としたくないですね!木下さん、ありがとうございます」
勘定科目内訳書
会話の中にもあったように、受取手形については振出期日と支払期日の記入欄が設けられているため、回収方法における裏付けとなるでしょう。他の資産項目では、棚卸資産については実地棚卸か/帳簿上での棚卸か/それらを併用しているか、といった状況や、科目名称のみでは内容が判然としない仮払金の内訳把握につながります。
資産科目以外では、営業債務や仮受金、借入金といった主要な負債科目のほか、土地の売上高等や役員報酬・人件費、地代家賃などの内訳書があります。記入すべき情報が非常に多いケースにおいては内訳の一部が省略されることがあるものの、主要なものは確認できます。
勘定科目内訳、とくに受取手形や売掛金の内訳は、社名を見ることで商流に合わない不自然な取引を発見したり、丸い金額に取引の不自然さを感じたり、経年比較によって同じ取引先への同じ金額が債権として滞留している事実に気づいたりと、与信先の分析材料として大変有益です。取引先に決算書を徴求できる場合は、一緒に提出を求めると良いでしょう。
法人事業概況説明書
具体的には、オモテ面に「支店や海外取引の状況」、「期末従業員の状況」、「株主又は株式所有異動の有無」、「役員又は役員報酬額の異動の有無」、裏面に「事業内容の特異性」や「主な設備等の状況」、「決済日等の状況」などといった内容となります。
すべての項目が記載されるとは限りませんが、前期に比べて売上が大きく増減しているケースでは、裏面の「当期の営業成績の概要」にその要因が記されるといった、他の提出書類にはない定性的な文字情報が書かれることもあります。
また、この法人事業概況説明書は決算書や申告書に比べ内容が平易であり、どの会社も同じ様式での提出が求められていることから、比較可能性の観点でも優れています。
こうした資料があることも知っておくと、取引先からの情報収集に役立つでしょう。