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  • 3月決算の審査 ~「審査台風」がやってくる~

2015.05.22

[企業審査人シリーズvol.82]

「今年もこれから繁忙期を迎えるから、午後の会議で審査のポイントを改めて確認しましょう」
 今朝の審査課の朝礼は、課長の中谷のそのひとことで終わった。

 「今年も3月期決算の審査か。忙しくなりますね!」と、下町育ちの青山は祭りを迎えるような顔をしたが、向かいに座っている秋庭はため息をついた。

 「うちのお客さんも3月決算の会社が半分くらいあるからなあ。9月決算の中間調査もあるし、もう少し分散してくれると楽だけど、こればかりはそうもいかないからなあ」
 「昨日電話で話をした調査会社の横田さんも忙しそうだったわよ。調査会社も繁忙期なんだって。COSMOS2の収録企業の20%強が3月期決算なんだって」と中谷が口を挟むと、秋庭が感想を漏らした。
 「20%強ですか。もっとあるのかと思ってましたけど」

 「上場企業は3月決算が半分以上だから、それよりは少ないわね。でも、社数と実際に調査が入る数は違うでしょうし、まあ20%でも、例月の倍以上の仕事があるわけだから大変だわ」
 「日経新聞でも上場企業の決算発表が続いておるからの。この時期は毎朝情報のチェックが大変じゃ」
 青山の隣でお茶をすすりながら、ベテランの水田も口を出した。まだ朝なので、煎餅は手にしていない。

 「有報提出のピークは今年も6月末ですよね。最近は短信だと連結しか出さないところも多いから、なかなか複雑ですよね」と秋庭が加えた。

 「審査で上場企業を見ることはあまりないから、上場企業の決算報告はあまり見てないんですけど、みなさんはちゃんとチェックしてるんですね」と青山が新人らしいことを口にした。
 「まあうちのお得意さんは中小のハウスメーカーが多いからの。青山君は小口の新規案件を担当してるから、まあそう言うのもわかるが、上場企業の決算報告も見ておいて損はないぞ」と水田が答える。

 「そうですかね。秋庭さんはどんな感じで見てるんですか?」と青山が質問を重ねた。

 「うちも取引がある上場のマンションデベロッパーは見るとして、他は飲食業とか流通系の業績動向は見てるかな。消費動向が何となくわかるし、住宅とか商業施設の建設需要がつかめるからね」

 「そうじゃな。秋庭君の言うとおり、わしもそのあたりは見とるな。まあ、住宅需要が盛り上がれば家を買った人たちが家具や家電を買うわけじゃから順番は前後するが、家電や家具関係はわしらのお客さんの建築需要を裏付ける指標にもなるじゃろう」と水田が秋庭の言葉を補足した。

 「なるほど。最近は家電小売がハウスメーカーを買収したりもしてますもんね」
 「そうじゃな。最近はITの進歩で、家もただ箱を作ってるんじゃなくて、いろんな機械設備が組み込まれておるからの。太陽光発電やら電力管理やら、難しくなったもんじゃ」と水田が遠い目をしている。

 「企業の事業領域も複合化してるから、思わぬ影響や取引関係が出てきますよね・・・どちらにせよ6月、7月は今年も残業が増えるから、覚悟しておいてね」と話を戻した中谷に、青山が言った。
 「今年は台風が来るのが早かったですけど、僕らの仕事はこれから台風シーズンということですね」
 「そうそう。審査台風を乗り切ってこそ、一人前の審査人よ。青山も吹き飛ばされないようにね!」
そう言って立ち上がった中谷が、青山にはいつか長野・善光寺の山門で見た風神像に見えた。

3月期決算の審査

 審査部門で、3月期決算が出てくる頃が繁忙期になるところは多いのではないでしょうか。TDBのCOSMOS2では3月決算の企業は30万社を超え、全体の20%超を占めています。
 二番目に多いのは12月期決算で30万社弱ありますが、こちらは法人化していない個人営業も多く含んでいますので、法人としては3月期決算がかなり多いと言えます。なお、3番目に多いのは9月決算で13万社あります。

 エピソードにもあったように、上場企業では3月期決算はさらに多くなり、上場企業を含む有価証券報告書提出企業のうち2,600社余、全体の2/3以上が3月期決算です。有価証券報告書提出企業の多くは、株主総会とともに決算更新の有価証券報告書を提出することになりますが、提出は6月中旬から下旬にかけてピークを迎え、今年は6月29日の月曜日に1,700社弱が提出する予定です。
 3月期決算が多いのは日本固有であり、他のアジア諸国では12月決算の会社が多いようです。流通関係は2月期決算が多いなど、決算期にはそれぞれの業種の繁閑による特色もあります。ただ、自社の顧客の決算期の偏りにより、審査業務の繁閑が生まれるのは避けられません。 

繁忙期の仕事

 こうした繁忙期の審査業務は、みなさんの会社ではどのようにさばいているでしょうか。審査の手順が厳格に決められている場合は迷う余地もないかもしれませんが、数をさばかなければならない局面では、審査手順の自由度が高いほど、業務のレベルに濃淡が生じがちです。
 とくに審査業務は時間をかけるほど多くの情報を参照できたり分析できたりする性質があり、忙しければこれらのどこかを省くような動きが出てきます。よって、審査チームで動く場合は、業務のメリハリをチームで共有しておくことが大切になります。
 こうしたメリハリづくりには、1社単位の業務量を軽減する方法と、対象によって手順を変える方法があります。1社単位の業務量軽減は、日頃からチーム内に単位時間の個人差が大きかったり、習熟度の違いが大きかったりする場合には、標準業務の再確認として有益です。
 ただ、1社単位の業務量軽減はなかなか難しく、逆に閑散期には元に戻ってしまったり、繁閑による業務の質が明確に変わってしまったりするデメリットもあります。

 よって、繁忙期の対策としては審査対象によってメリハリをつけるほうが良いようです。審査対象によるメリハリとは、審査対象企業の属性によって重点精査をするものと、手順をある程度スルーできるものを分けて処理する方法です。
 どちらにせよ、繁忙期に入る前にこの繁忙期の重点事項をメンバーで確認しておくことが、抜け漏れのない均質な審査につながります。今年の繁忙期もチームプレイで乗り切り、回収事故を防ぎましょう。
 
 

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