簡易課税の話 ~税務版「2年継続」~
2015.07.31
「木下さん。この会社の雑収入について聞きたいことがあるんですけど・・・」
青山が決算書を片手に経理課の木下を訪ねる風景は日常茶飯事になりつつある。木下の隣で仕事をしている経理課のベテラン・アルバイトの坂崎が(また来たわね・・・)と一瞬顔を上げたが、すぐ仕事に戻った。
「お、今日は何ですか?」と応じる木下の声音は、青山の相談を楽しみにしているようでもある。
「売上が5千万円未満の小さな会社ではあるんですが、雑収入がちょっと大きくて。営業担当を通じて聞いてもらったら、内容は消費税計算差額だというんです。聞いたことがないので、教えてください!」
「なるほど。この会社は消費税の計算を簡易課税で行っているわけですね」
「簡易課税?消費税を簡単に計算する、という意味ですか?」
「先ほど、売上が5千万円未満と言いましたね。前々事業年度の売上高が5千万円以下など一定の要件を満たすと、課税売上の一定割合を納付すべき消費税額として計算できる簡易課税制度を選択できます」
「普通は、売上とかかった経費の消費税を積み上げ計算して、預かった差額分を納付するんですよね」
「そうです。それはちょっと前にお話ししたとおりですね。それを原則課税と言います。でも、売上規模が小さい会社では、原則計算は実務上の負担が大きいので、簡易課税を選択できるようになっているんです。今回の雑収入の正体は、会計上は税抜処理をしていて、仮受・仮払消費税の積み上げ差額分よりも、簡易課税で計算した消費税が少なかった分となります。原則で計算した税額より納付額が安くて済むので、差分が収入になるのです」
「法人では約3割、個人事業では約6割が簡易課税を選択しているそうですよ。基準期間における課税売上高が5千万円以下という条件ですが、税務署に所定の届出を事前に提出していると簡易課税を選択できます。適用している事業所は結構多いので、知っておくと良いですよ」
「計算方法が簡単で、計算差額が雑収入になるなら、簡易課税を選択できるメリットは大きいですね」
「そう思うかもしれませんね。でも、実際は必ずしもメリットばかりじゃないんです。消費税の簡易課税について、もう少し説明しておきましょうか」
「お願いします。具体的な計算方法はどうなっているんですか?」
「業種を6区分して、それぞれに定められた『みなし仕入率』を用いて計算することになります」
「『みなし仕入率』って・・・なんでしたっけ?」
「例えば、小売業で売上が100万円だったとき、適用される『みなし仕入率』は80%になります。消費税が8%だったら、納税額はいくらになるでしょう?」
「100万円に80%をかけて80万円を仕入と見るから、利益が20万円・・・20万円に8%だから、つまり1万6千円が納付額ってことですね」
「正解です。もし、その会社の実際の仕入額が70万円だったら、どうでしょう。原則で計算すると納税額は2万4千円ですね。でも簡易では1万6千円なので、この差額の8千円が雑収入、というイメージですね」
「ということは、その『みなし仕入率』よりも仕入れが多かった場合は、逆に損になってしまうんですか?」
「その通り!損になってしまうケースもあります。他には、簡易課税を選択している最中に高額の固定資産を買ったとしても、その消費税分を『みなし仕入率』で計算した消費税額から控除することはできません」
「損になってしまう場合は、原則どおり計算して申告すればいいんじゃないですか?」
「いえいえ、一度簡易課税を選択すると2年間は継続適用しなければいけないんですよ。だから、よく検討した上で慎重に選択する必要があるでしょうね」
「2年間は継続か・・・携帯電話会社の契約みたいですね」と青山がとぼけたことを言うと、木下の隣の坂崎が無表情に青山を見上げた。
簡易課税の選択要件
いわゆる2期前の課税売上が基準になる、という点に注意が必要です。例えば、課税売上高が平成25年度は4千万円、平成26年度は6千万円、平成27年度は7千万円という場合、平成27年度は簡易課税を受けられますが、翌年からは受けられず、原則によって計算しなければなりません。
また、簡易課税を選択する場合は、「簡易課税制度選択届出書」を事前に税務署に提出する必要があります。なお、簡易課税をとりやめるときにも、「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要がありますが、一度簡易課税を選択すると、2年間は継続して適用した後でなければ、やめることができませんので、注意が必要です。
事業区分とみなし仕入率
■卸売業(第一種):みなし仕入率90%
■小売業(第二種):みなし仕入率80%
■製造業等(第三種):みなし仕入率70%
■金融業及び保険業、運輸通信業、サービス業(第五種):みなし仕入率50%
■不動産業(第六種):みなし仕入率40%
■飲食店業、その他の事業(第四種):みなし仕入率60%
基本的には上記の中から該当する種類の事業売上に応じて、区分して計算することとなります。ただ、対外的に卸売業を行っているとしても、原則として事業区分は取引単位ごとに判定し、それぞれ第一種事業から第六種事業のいずれかに区分することになる点には、気をつけなければなりません。
ただ、複数の事業売上がある場合であっても、一種類の事業の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占める場合には、特例としてその事業のみなし仕入率を全体の課税売上に対して適用する、といった方法も認められています。なお、簡易課税の事業区分の判定に当たっては、税務署のホームページに掲載されたフローチャートを参照してください。