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  • 倒産のトレンドとチェックポイント ~横田との情報交換~

2015.11.24

[企業審査人シリーズvol.101]

その日、ウッドワーク社の応接室に調査会社の横田が姿を見せた。調査報告書のレクチャーを受けて以来、何度か質問の電話をしていた青山だが、こうして会うのは久しぶりのことだ。 とある会社について信用情報を問い合わせた課長の中谷が、週内に近くまで来ると聞いて、寄るように声を掛けたようだ。
 青山が中谷とともに応接室に入ると、すでに横田が通されていた。

 「いやあ、ご無沙汰してしまってすみません!夏の間は調査が忙しくて・・・」
そう言って頭を掻いた横田はまだ夏のようなさっぱりとした短髪で、鉢巻きが似合いそうな出で立ちである。
(相変わらず江戸前・・・いや、男前だなあ)と、青山は磯の香りを嗅いだような気がした。
 「相変わらず倒産件数が落ち着いてるから、横田さんは暇なんじゃないかと思ってたけど・・・」
 「そうですね。倒産件数は今年の上半期も前年同期比で11%減って、リーマンショック後最低の件数でした。ただ、私たちの調査件数は増えてきていますよ」
 「倒産が少ないのに、調査は増えるんですね」と青山が口を挟んだ。
 「そうですね。因果関係については何とも言えないところがありますが、アベノミクスによる景気浮揚局面に入って経済が活性化してきたので、新規取引のニーズもそれなりに増えているんじゃないかと思います」
 「倒産件数とは必ずしも比例しないんですね」
 「相関がないとは言えませんけどね。長く見ればバブル崩壊後の信用収縮期には一貫して調査受注が増えましたから。ただ、信用調査は金融機関や商社、リース会社などの需要が大きいですから、大口の需要の動きにも影響を受けます。それに、調査の主要目的が与信管理であることに変わりはありませんが、新しい市場ができたり新しい事業を始めたりすれば調査ニーズも増えますから、そういう部分も大きいですよね」
 「なるほど。中国の景気減速で株価も国内景気も斑模様だけど、経済はそれなりに動いているということね。うちの業界ではマンションの施工不良問題とか、品質とかコンプライアンスに関する話題が多いけど、最近のトレンドはどうなのかしら」と中谷が質問を続けた。 
 「中谷課長のところは建設業界が相手ですから、そうですよね。これから今まで以上に情報の管理や開示の体制を整えるニーズが出てきますから、対応力による勝負にもなってくると思います。前にもお話したとおり、建設関連では太陽光発電系の新規参入がこの数年話題になってきましたが、業者の淘汰が進んできて表面的には少し落ち着いてきた印象があります」
 「そうね。うちは設備関係にはあまり絡まないけど、与信判断に迷う新興企業もあったわ」
 「最近は多重リースや粉飾決算、循環取引が絡んだ倒産が話題になることが多いですね。粉飾については上場企業クラスになると会計処理の厳格化がそれだけ進んでいるという側面もあるのでしょうが、中小でも倒産後に粉飾していたことがわかるケースは後を絶ちません。融通手形は手形流通量が減っているので昔ほどは聞きませんが、循環取引も含めて苦しい企業が手を出すケースはなくなりませんね」
 「業界的にはどうなのかしら」
 「エステ関係の倒産や話題は多いように思いますね。価格破壊とともに競合が増え、店舗展開に人材育成が追いつかずに施術の安全性も問題にされるケースが出てきています」
 「うちにはあまり関係なさそうですね」と青山が安心したような顔をすると、中谷がたしなめた。
 「エステだって飲食だって、お店を作ってるのは誰よ」
 「それは・・・建設業の会社ですよね」と青山は落とし穴に落ちた子供のような顔をしている。
 「そうそう。だから、同じ建設業者でもどういう仕事が多いのかを見なきゃいけないってことね」
 「中谷課長の言うとおり。循環取引や融通手形では逆に商流と無関係な取引先に注意が必要ですね」

倒産動向

 TDBの集計では、2015年度上半期の倒産件数は4,217件と、リーマン・ショック後の最少を記録しました。負債総額も8,485件億円と4期連続の前年同期比減少を示しており、件数では前年上半期比11.2%減、負債総額で同7.2%減と減少トレンドが続いています。
 2008年9月のリーマン・ショックの直後、2009年の上半期は倒産件数が6,712件、負債総額が2兆4,673億円だったわけですから、かなり低水準で落ち着いているということになります。これは金融支援政策の継続や企業再生スキームの法的整備の進行などに支えられている側面があり、チャイナリスクの顕在化や資材・人件費の高騰といった要因が今後どう影響してくるのか注目されるところです。
 業種別に見ると、景気回復による物流量の増加、東京オリンピック開催に向けた建設需要などにより、運輸・建設関係の倒産が2ケタの減少を示しています。インバウンド需要を取り込んだ観光産業も好調ですが、こうした需要を取り込めていない地方の旅館の倒産・廃業も目立ちます。
 もとより、TDBの集計によれば2014年度は倒産件数が9,044件と8年ぶりに1万件を割った一方、休廃業・解散は24,153件と倒産件数の2.7倍に上っており、高齢化社会において後継者の有無や事業承継の円滑さも企業の存続を見る上での重要なポイントになりつつあります。 

得意先のその先

 与信管理において「得意先の得意先」まで見通すことの重要性は、以前このコラムでも触れました。得意先の持つ営業基盤が得意先の業況に直接影響するから、というのがその理由ですが、現在のように景気が斑模様の局面では、より重要になっていると言えます。
 一時期のような一様に不況色が強い局面ではないため、どういう市場や大口得意先を持っているか、それらのバランスがどうかを見極める重要性は高いと言えます。
 家電大手を元請先とする製造業において、その納入先によって業況や収益状況が大きく異なっています。短期的な業績もさることながら、長期を見通す上では個別企業やその取引関係のみならず、業界や市場を俯瞰する視点が不可欠です。 

手形と銘柄

 倒産件数は落ち着いており、当面は景気の安定と金融支援策の継続によって低水準が続くのではないかと見られています。しかし倒産の現場では多重リースや融通手形、循環取引といった金策が破綻して倒産する事例が後を絶ちません。
 融手倒産はバブル期前の1987年には全倒産件数の23%を占める倒産様態でしたが、その後は手形の流通量が激減したこともあって減少の一途を辿り、2001年には倒産件数の3.8%まで減少しています。しかし、景気上昇局面において拙速な事業拡大や新事業への進出を図った結果、運転資金不足に陥った会社が手を出すことは今も昔も変わらないようです。 回し手形をもらう場合、昔からチェックポイントとして「その会社の商流に照らして不自然でないか」「金額が丸すぎないか」といったことが挙げられています。その商流から想像のつかない、あるいは商流が逆になる手形には注意が必要です。
  
 

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